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十階見学ツアーへ出発



 新しい仕事を割り振ったばかりであったが、希望者が多かったため先に十階を一度見に行くこととなった。

 参加するのは俺、パウラ、ミア、エタンさんのいつもの四人に加え、おなじみの村長夫妻とヘイモ。

 さらに裁縫班からは魔術士の女性二人に、青年団からは戦士三人と弓士二人の大所帯である。


 魔物のほうはヨルとクウと青スライムのスーとラー。

 それと八階や十階の拠点作りの先陣として、ゴブっちと弓が得意なゴブリン二匹が名乗り出てくれた。


「それじゃあ出発しますか。準備はいいですか?」

「はいはーい。いつでも行けるよー!」

「しゅったつー!」

「くー!」

「おいおい、そのスライム乗るの楽しそうじゃねえか! オレの分はねえのか?」

「ニーノ様、私は剣士での参加でよろしかったですか?」

「あなた、そんな無茶はなさらないでくださいね」

「なんか次の階は、でっかい海があるらしいぜ」

「へー、龍の内海とどっちがでかいかな」


 いつもの数倍の騒がしさである。

 六階は東西に道が分かれており、階段がある正解のルートは西側である。

 が、今日はあえて東から進む。


「まずは、試しに蟹と戦ってもらおうかな」


 東の行き止まりの道にも蟹と亀が現れるのだが、回収に寄っていると四十分ほどかかってしまう。

 そこで護衛が終わって手が空いた青年団に、代わりに狩ってもらおうと考えたのだが……。


 四階までの魔物を相手してきて、それなりの自信はあったのだろう。

 強気に蟹に挑んだ若者たちだが、結果はあまり芳しくないものであった。


「や、槍が刺さらねぇ。めちゃくちゃ固えぞ、こいつ!」

「く、矢も無理だ! ハサミ振り回してくるぞ。下がれ!」

「なに、あの水の泡! あんなのありかい?」


 犬の骨の槍やゴブリンの短弓では、少々威力不足であったようだ。

 助っ人の女衆の<火弾>もあっさり<水泡>に防がれてしまい、決定打がないまま亀が参戦というドツボにはまったパターンに入ってしまう。

 見かねた村長とヘイモが割って入ってくれたおかげで、辛うじて勝利を拾えた感じであった。


「レベル不足もあるが、もう犬の骨じゃ厳しいか」


 白魔石の塊は残り少ないが、怪我人を出しては元も子もないしな。

 七階のボススケルトンが落とす鉄鉾を、二本だけ<復元>して渡してやる。


「これなら通用するはずだ。全員分はちょっと無理だから、交代で使うようにな」

「あ、ありがてぇ!」

「オレにも触らせてくれ!」


 剣の打ち直しじゃなく、鉄製の槍の穂先と矢尻作りが先だったか。

 ダークメイスの強さは折り紙付きな上、村長やヘイモが最初から戦闘に参加したので、その後の蟹狩りはすんなりと終わった。

 この調子なら、任せても大丈夫そうである。

 まあ何かあっても、蟹や亀は足が遅いので五階に余裕で逃げ込めるだろうし。


 ボスの大蟹討伐も含め、一時間半ほどで六階の探索は終わる。

 ついで七階だが、ここのシャドウは裁縫班の二人に頑張ってもらう。


「う、撃っていいんだね?」

「本当に大丈夫なのかい?」


 どこかで見たような反応を見せつつ放たれた火の玉で、影の形をした魔物たちは次々と倒されていく。

 距離をとって魔法撃つだけで終わるので、本当に経験値稼ぎに向いた相手である。


 中央の骸骨の塔は、村長夫妻の息のあったコンビが大活躍だった。

 スケルトンどもが使っていたボロっちい剣と盾も、もれなく回収しておく。

 ボスの大きな骸骨はさすがに厳しいので、ここはレギュラーの出番だ。


「おお……、なんて強さだべ……」

「す、凄まじいな……」


 ヨルとクウの圧巻の戦いぶりに、青年団から称賛の声が漏れた。


 ツアー開始から約三時間。

 昼も近くなったので、次の八階で一休みとする。


「なんでぇ! 骨とか変な影とか、たいしたことねぇのばっかりだな!」


 ここまでさほど出番もなく景色も陰鬱だったため退屈気味なヘイモだが、木の回廊の眺めに目をまんまるにする。


「うぉお! なんだよ、ここ! こういうのを早く見せろってんだ!」

「…………あああ」

「…………ひ、広いな」


 青年団の若者らにいたっては、口を最大限に開けたまま身じろぎを忘れる有り様だ。

 村長らも感銘を受けたのか、小刻みに肩を震わせていた。


「キヒヒヒ!」

「クフフフ!」


 エタンさんが小さく口笛を吹いて呼び寄せた妖精たちに、西の木のウロとやらまで案内してもらう。

 人が余裕で入れそうな幹の穴は、地上から四、五メートルの位置に空いていた。

 うん、あの高さなら、狼が飛び上がっても届かないな。

 

 幹の下で、輪になって昼食を取る。

 メニューはローズマリーをまぶした野うさぎのローストに、今朝のごった煮の残り。

 あとは青年団が持ってきた固いパンである。


「全くもって見事な景色ですな、ニーノ様」

「こんな大きな木は初めて見ましたよ。とても立派ですね」


 気に入ったのか上機嫌な声で話しかけてくる村長夫妻に、俺は頷いて話を続ける。


「こんだけ大きいと、切り倒すのは一苦労どころじゃないですけどね」

「ああ、言われてみればそれもそうですな」

「まさかりがすぐにダメになりそうで、困りましたわね」

 

 そうか、まさかりも忘れずに頼んでおかないとな。

 食事を終えた俺たちは、さっそく狼狩りを開始した。

 

 途中、青すぐりの争奪戦にヘイモとゴブっちが参加したりと騒ぎもあったが、昨日よりも早い二時間弱で黒毛狼の群れを殲滅することができた。

 妖精たちの連携がより取れてきたのと、ゴブっちらの弓部隊の活躍が大きいようだ。

 やっぱりここに数匹、常在してもらおうかな。


 そういえば蔦を集めながらの前進だったが、不思議なことに植物の蔓はアイテム一覧に回収できないことが判明した。

 ゲームになかったアイテムの場合、謎空間が認識しないことがあるのかもしれない。

 と言っても、ドラクロ2に出てこなかったアイテムでも、収納できる時もあるので本当に謎である。


「よし、あと二階ですよ」


 孤独なボスモンスターを矢ぶすまにして、毛皮等をあっさり回収する。

 ちなみに以前食べさせた肉がいまいちだったせいか、ヨルとクウもボス狼の肉は進んで食べようとはしない。 

 それと人型がダメなのか、九階のボスのワーラットも無視していたな。


 九階へ進む前に、階段の上から二段目に余っている白照石を置いて点灯しておく。

 これは俺たちがここを通過したぞという証で、これまでの階段全てにも同じように置いてきてある。


 後続の村長や青年団が、この合図を見て通路の掃除が終わっているか判断できるというわけだ。

 俺の魔力を注ぎ込めば半日は点けっぱなしになるので、勝手に消えて間違えることもない。


 それと実は、俺たちがどこまで進んでいるかの目印も兼ねていた。

 帰還が困難な状況に陥る可能性がないわけではないと、今朝の青年団たちの言葉で気付かされたからな。

 

「お、またこりゃ薄暗い場所だな! うん、気に入ったぜ!」


 獣人種は基本的に穴ぐら暮らしのせいか、廃鉱山のようなこの階の雰囲気は合っていたようだ。

 ただし、登場する魔物を見る前までであったが。


「なんだ、こいつら! 薄気味悪いったらありゃしねえぞ!」


 でっかい団子虫に、首から上が巨大なネズミの顔の人間だしな。

 ここからは遠隔攻撃持ちの出番だが、今日はたっぷり揃っているので安心である。

 

 収獲としては、ワーラットの隠し場所から装備品は出なかったが、入り口すぐの西の通路奥に人工っぽい泉が発見できた。

 この階も水には不足しなさそうである。


 特に危うい場面もなく、空白だった地図の残りを綺麗に埋めていく。

 そして四十分ほどで、階段前に着いてしまった。


「よーし、十階まであと一息です。さくっと終わらせましょう」


 と気合を入れてみても、ボスはただのワーラットの集団だしな。

 軽々と宙に舞ったクウが、紫の羽吹雪を繰り出して数秒で終わってしまった。


 よし、回収回収っと。

 ボスは、この九体目のやつか。

 …………あれ?



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― 新着の感想 ―
[良い点] ワーラットボスが増えてる?? やってきた人数対応なのか、日に日に増えていくのか・・・ 何にせよ後が怖いような
[良い点] うーん? これはあれか。パーティーメンバーが増えると敵が増えるシステム的な。
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