新たな可能性
五日目は、朝から同行者の選定だ。
すでに昨日の参加者から噂が広まっていたのか、酒場は希望者でさらに溢れ返っていた。
物珍しさだけでなく得まであるとなれば、人は簡単に飛びつくものだ。
「よしよし、みんな迷宮にはまってきたな。いい傾向だ」
「ふふ、あなた様の思うツボですね」
朝っぱらから、微妙に悪役っぽい会話である。
それはそうと、酒場にはいい匂いも溢れていた。
昨夜は早めに戻れたので、ウーテさんにたっぷりあった恐鳥の肉を調理してもらったのだが、歯ごたえがありすぎるとの声がチラホラ出た。
そこで煮込み料理にしてもらったところ、こっちの評判は上々のようだ。
シチューと言うよりポトフに近い感じだろうか。
いや入っている具は乾燥豆と丸芋だけで、味付けも塩のみだからポトフとも呼べないか。
しかし肉に旨味があるせいか、十分に美味しいと言えば美味しい。
ただ、やはりどこか物足りないので……。
「調味料や香辛料も、できるだけ仕入れてもらっておかないとな」
ハンスさんは、明後日には行商に出発する予定だ。
いろいろ売り払った金で、たんまり買い込んできてもらうつもりである。
「迷宮の畑に植える野菜の種もほしいな。あとは鞍も、いや、そこら辺はこっちでなんとかするか……。一ヶ月は長いしな」
せっかく用意してもらったロバの鞍だが、小さすぎて突撃鳥には載せられなかったのだ。
鐙の部分だけは使えそうであったが、鞍にくっついたタイプだしな。
それと革製の手綱も、くちばしで簡単に噛み切られそうなため断念した。
馬と鳥では、やはり勝手が違うようだ。
「じゃあ、そろそろ出発しましょうか」
本日のお手伝いは戦士見習いの男女二人に、魔術士見習いの男性一人。
それともう一人、治癒術士の女性だ。
「本日は、よろしくおねがいしますね、ニーノ様」
丁寧な口調で頭を下げてきたのは、村長の奥方であるカリーナさんである。
鬼人種の特徴であるスラリとした長身に整った顔立ち。
村の女衆のまとめ役をしておられ、その落ち着き払った物腰は非常に頼りになりそうな印象だ。
治癒術士の経験はあまりないそうで、現在のレベルは8である。
まあ迷宮レベル上げコースにかかれば、二桁まで一瞬だろう。
他のメンバーは昨日と変わらず、ハンスさんは魔術師での参加だ。
地下一階に入った俺は、村の人たちに薬品を渡しながら注意を促す。
と言っても、ヨルやクウたちにだが。
「今日はよしと言うまで、殴っちゃダメだぞ」
「ごむたいー!」
「くぅ!?」
なんせ、もうレベル20台だからな。
三、四層くらいまでの魔物相手じゃ、経験値はほとんど得られないのだ。
ちなみに上位四名のステータスはこんな感じである。
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名前:パウラ・アルヴァレス
種族:魔人種
職業:従魔士(レベル:20)
体力:16/16
魔力:86/90
物理攻撃力:22
物理防御力:13
魔法攻撃力:64
魔法防御力:24
素早さ:48
特技:<魔性魅了>、<下僕強化>、<魅惑>、<従属>、<解消>
装備:武器(黒革の鞭)、頭(旅人のローブ)、胴(旅人のローブ)、両手(黒革の手袋)、両足(黒革の長靴)
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レベル20になって覚えたのは<解消>。
<従属>した使役魔を隷従から解き放つ特技らしいが、ゲームでは仲間一覧のコマンドで自由に解雇できたので俺も初見の技だ。
酷い話ではあるが、普通に見殺しにすれば使う必要もない特技である。
が、パウラ曰く、使い途は他にもあるとのことだ。
それとやはり無理をしていたようで、現状では使役魔の数はほぼいっぱいらしい。
青スライム二匹に、大ミミズ二匹、大芋虫一匹に妖精一体。
さらにゴブリン一匹に、大型の突撃鳥二頭まで増えたしな。
昨日からやや情緒が不安定なのも、魔力が吸われすぎた影響だとか。
なので次に味方に加えたい魔物が現れた時は、関係を<解消>するしかないが、全員役に立ちまくりだしな……。
悩ましい問題である。
ちなみに<解消>の第一候補は。突撃鳥たちだ。
魔力食いなのもあるが、正直お馬鹿過ぎて扱いにくいのだ。
青スライムとの一戦目、ヨルやクウが我慢する中、この二頭はいきなり飛び出したかと思うと、ガツガツと獲物を突いた挙げ句、ズルズルと全部飲み込んで食べてしまった。
パウラがいくら鞭を鳴らしたところで、我関せずといった顔である。
おかげで魔石どころか、体液や皮の回収もできない有り様だった。
鳥頭という言葉を、身を以て実感した体験でもあった。
話を戻そう。
続いて魔物っ子たち。
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名前:ヨル
種族:魴コ(謫ャ諷倶クュ)
職業:従魔(レベル:22)
体力:66/66
魔力:44/44
物理攻撃力:44(+9)
物理防御力:44(+19)
魔法攻撃力:33(+7)
魔法防御力:33(+7)
素早さ:33(+7)
特技:<たべる>、<しっぽ>、<ぎゅん>
装備:武器(大恐鳥の目)、頭(なし)、胴(スライムの体)、両手(なし)、両足(なし)
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名前:クウ
種族:魴シ(謫ャ諷倶クュ)
職業:従魔(レベル:23)
体力:44/44
魔力:66/66
物理攻撃力:33(+18)
物理防御力:33(+17)
魔法攻撃力:44(+7)
魔法防御力:44(+7)
素早さ:33(+12)
特技:<たべる>、<ぱたぱた>、<びりびり>
装備:武器(芋虫の糸)、頭(なし)、胴(スライムの体)、両手(コウモリの翼)、両足(大恐鳥の足)
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二匹とも本当に安定した数値の高さである。
<ぎゅん>と<びりびり>は今さら説明は不要だが、なんと装備項目が増えていた。
ユニークモンスターの"貪欲なる恐嘴"を、鳥しゃぶにして食べたせいだろうか。
足の先からでっかい爪がにゅっと出てくるクウも凄いが、ヨルの大恐鳥の目にはかなり期待が持てそうである。
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名前:ミア
種族:汎人種
職業:魔術士(レベル:20)
体力:20/20
魔力:60/60
物理攻撃力:10
物理防御力:15
魔法攻撃力:30
魔法防御力:24
素早さ:19
特技:<三属適合>、<魔耗軽減>、<火弾>、<水泡>、<風刃>
装備:武器(なし)、頭(コウモリの羽帽子)、胴(村人の服)、両手(なし)、両足(革の短靴)
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レベル20で習得した魔術は、凝縮して刃状にした空気を飛ばす<風刃>だ。
名前は格好いいが魔物の体を切り裂くほどの威力はなく、せいぜい細い木の枝を折れる程度らしい。
ただレベル20に達したことで、ミアは新たな職業に就ける可能性が出てきた。
錬成術でも少し触れたが、この世界の魔素の力は大きく三つの段階に分類される。
一段階目は、現世の力。
六種の魔素が持つ基本的な力で、自然現象そのものでもある。
体内の魔素を用いて再現できるため、使用者は魔術士と呼ばれる。
二段階目は、創世の力。
六種の魔素により世界が構築された時に生じた力で、より複雑な現象を生み出せるようになる。
行使には魔法陣が必須なため、使用者は魔法士と呼ばれる。
三段階目は、常世の力。
この星そのものを形作り維持する高次の力で、行使するためには世界に満ちる魔素を導く必要がある。
より多くの魔力を必要する魔導陣を描くその姿は、魔導士と呼ばれ尊敬の念を集める。
と、ゲームの説明書風に述べてみたが、要は初期職業、中盤の職業、最終職といったところだ。
他の職業でもだいたい同じだが、初期職業はレベル20で条件を満たせば中位の職業に転職できるようになる。
中位の職業は、レベル40で同じく上位職に。
なお初期職業はレベル30、中位職職はレベル50、上位職業はレベル60でカンストである。
で、大きな問題は、特技がレベル10単位で覚えることができる点だ。
中位や上位の職業へ転職すると、カンストまで育てていても、それぞれレベル20と40に戻されてしまう。
が、それがいいのである。
レベル20の魔術士が魔法士に転職すると、レベルは減らないが特技の数は三個。
しかしレベル30に達した魔術士の場合だと四個である。
つまり早めに転職すると、特技を覚えられる機会が一回分減ってしまうというわけである。
ここがドラクロ2では結構、重要な要素であった。
ちなみに前衛である剣士から騎士、そして聖騎士へのクラスチェンジも、同様に使える特技の数は変わってくる。
レベルの上限が60までなので、この辺りでキャラの強さがまるっきり変わってくることもあるのだ。
そんなわけでミアの転職は、まだちょっと先の話である。
条件も満たしていないしな。
突撃鳥のせいでややグダグダになりつつも、昨日と同じく二時間ほどで五階に到着する。
最初はおっかなびっくりで骨の槍を突き出していたカリーナさんも、最後は裂帛の勢いで魔物たちを貫いていた。
無事にレベル15に達した村の人には、引き続き畑の整備をお願いする。
そして俺たちは、速やかにすっかり馴染みとなったゴブリンたちの集落へと向かった。
「あら、私もですか?」
「はい、カリーナさんには、ぜひやって欲しいことがありますので」
可能性に! えーと、その…………。
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