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動き出した村



 翌日、ルイーゼお嬢様は村長と商館を建てる場所などを取り決めた後、意気揚々とした面持ちで帰っていった。

 この村に無事受け入れてもらった気持ちだったのだろう。

 

 ただし次に出会えるのは、果たしていつになるかは不明だ。

 結構、立派な建物を造るっぽいから、下手すると完成は数年単位になりかねない。


 悠長に待っていると世界が先に滅んでしまうため、俺たちもできるだけ手伝うことにした。

 それに領主様に龍玉の宮殿の存在が気づかれる前に、味方は可能な限り増やしておきたいしな。


 ここからグヴィナー子爵領の領都オクトゴーンまでは、馬車で二日半から三日ほどである。

 ただし来る時は大工五名と機織り機二台を乗せていたので、四日かかったそうだ。


 建築用の資材なども、もとから領都近くから運んでくる予定だったらしい。

 が、ちまちまと馬車で運んでいたら凄まじく時間がかかってしまう。

 それに費用が恐ろしい額になるのは間違いない。


 なので木材や石材は村から提供すると、村長を通して伝えておいた。

 こっちの収入にもなるし、いいこと尽くめだ。


 酒場の隣は馬車を置くスペースが広めにとってあったのだが、そこが商館の建築予定地となった。

 元より酒場は夜も騒がしいせいで周りの家との距離があり、その空間がちょうどいい感じだったようだ。


「そいじゃ、始めるかな」


 大工たちが最初に取り掛かったのは、自分たちが暮らす仮小屋造りだった。

 酒場の床を借りて寝泊まりする話もあったが、まだ冷え込む時期でもあり、少しばかり厳しかったとのことだ。

 あと大事な大工道具は、鍵がかかる場所にしまっておきたいというのもあるらしい。


「お、ありがとな、ヨル」

「なんのー!」

「クウも運んでくれたのか。助かるぜ」

「くー!」


 従魔や使役魔たちだが、魔物使い自体は大きな街や都市ではそう珍しくもない。

 そのため褐色肌のパウラたちのおかげで、スライムたちは案外すんなりと大工たちに受け入れられた。


 もっともヨルとクウはそうもいかず、かなり驚かれはした。

 だが人懐っこい上に、きちんとお手伝いする姿がよかったのだろう。

 三日ほどで、すっかり現場ではマスコット兼仲間扱いである。


 すぐに使えるよう乾燥させた丸太を酒場の裏手に俺がこっそり積み上げておいたので、寝泊まり用の小屋はすでに半分ほど組み上がっている。

 それが終われば土台を固める作業に入るらしい。


 その後の基礎部分に石を使うとのことで、現在せっせと地下迷宮から運搬中であった。

 で、石の出どころだが、実は地下七階だったりする。


 七階といえば、なんにもないハズレ階のはずだった。

 が、実は一つだけとても便利な場所があったのだ。

 それは骸骨たちの住処となっている謎の塔である。


 ただの古ぼけた建築物で、てっぺん辺りも崩れておりなかなかに危険である。

 が、そこは大して問題ではない。

 重要なのは、塔が石造りである点だ。


 俺のアイテム回収だが、触れば全て謎空間に収納できるというわけでもなかったりする。

 丸太の場合だと一度木を切り倒す過程がないと、素材として認識されないのだ。


 そしてその縛りは、建築物も同様であったらしい。

 きっかけは商館の建築に石が要るとの話を聞いた青年団が、あの塔をばらして使えばと言い出したのが始まりだ。


 もっとも迷宮内の建造物は、そう簡単に動かせない仕組みとなっている。

 地下一階も床や壁は石造りだが、積石を抜き取ることは全くもって不可能であった。

 

 しかしあの骸骨たちの塔は、最上階だけ屋根がなく壁も崩れかけという有り様だ。

 当然、建材に使われている石も、容易に取り外すことができる。

 それをえっちらおっちら地上まで運ぼうという計画だったのだが、試しに塔から外した石に触れるとあっさり回収できたというわけである。

 そして取り去った部分は、翌日にはきっちり補完されていた。


 つまりこれは、四角く整った石が取り放題になったということでもある。

 気づいてしまえばなんてことはないが、こいつは素晴らしい発見であった。

 

 そんなわけで今は塔の最上階から回収した石を俺が村の近くで謎空間から出し、わざわざ荷車に積み込んで建築現場へ運んでいる。

 川の近くで採れるという設定だ。

 大工の中に二人ほど石工の心得があるらしいので、おそらく怪しまれてはいるだろうが建前は大事だからな。


 そんな感じでそう遠くない内に、商館の建築は始まるだろう。

 

 次に村にもたらされた変化といえば、機織り機の導入である。

 こっちは一台を村長の家に置いて、織り方を職人に教授してもらうこととなった。

 もう一台は言わずもがな、地下五階のゴブリン村へ運搬済みである。


 そして機を織るにも材料がいる。

 その補給先の言い訳として、村の近くで曲角羊の放牧を始めることにした。


 もとより人を襲うような魔物ではないので、<従属>してから地上で隷属を<解消>して放し飼い状態である。

 一応逃げ出さないように、今はせっせと柵を製作中だ。


 おかげで地下迷宮での作業は遅延が生じているが、村が変わっていく様は思った以上に面白かったらしい。

 村の人たちも、率先して作業を手伝ってくれている。


 商館の建築は、この村に様々な波紋を生み出してくれたようだ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 八階は森のフロアで アンデッドが居て塔があるのは七階では?
[良い点] おぉ滅びゆく地上にも開発の場を。 まぁ入口を門とすればその周りが発展するのも当然ですか。 ヨルクウが数日手伝うくらい迷宮探索が進んでいないとなると急いで形ができて欲しいところ
[一言] ひさしぶりのご姉弟!お手伝いできてえらえねぇ〜(ほっこり
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