思わぬ来客の正体
寝入りばなに森カラスに突き起こされたノエミさんは、最初はまたかと思ったらしい。
闇に紛れて村を抜け出そうとして、カラスの痺れ毒の餌食となった若者はこれまでに五人。
全員が現在、地下十階で心を入れ替えたように頑張ってくれていた。
彼らの誰かだった場合、厳重に処罰するしかない。
祈るような気持ちで向かったところ、地面に寝転がっていたのは――。
「こいつらというわけか……」
村の入口近くに居たのは、見覚えのない二人組の男であった。
くたびれた薄汚い格好に、そこそこの体格。
人相が分からないよう、顔の下半分を布で覆っている。
確認しようとめくってみると、下から現れたのはまっとうな道を歩んでいなさそうな人相だったと。
「前々からちょっかいかけてきた連中の仲間っぽいな」
「業を煮やしたといったところですかね」
すでに四人ほど旅人を装って村を訪れた胡散臭い男たちは、ことごとく迷宮で魔物の餌になっていた。
戻ってこない仲間の様子に、そろそろやり方がまずいと気づいたのだろう。
「で、手荒い真似に出ようとしたと」
「今日は貯め込んでいそうなお客様も、ちょうどいらっしゃってましたしね」
「なるほど。ついでにいただこうと欲張ったわけか」
暗闇に紛れて音もなく飛来する森カラスは、相当な手練でなくては避けることは不可能である。
しかも爪で一掻きされるだけで、あっさりと体の自由は奪われてしまうしな。
「お手柄だな。モリカ」
「カァ!」
得意げに鳴いた森カラスは、男たちの足元をくちばしで突いてみせた。
裾をめくるとナイフの柄が現れる。
腰や懐の武器も取り上げ、手足を吸血蔦でしっかり結んでから、解毒薬をほんの少しだけ飲ませる。
「これで喋れるかな」
返事はない。
俺たちを無言で睨みつけてくるだけだ。
まあ、泣き言や罵倒がすぐに飛び出してこないほうが、手練っぽくて期待は持てそうである。
「じゃあ、いろいろと聞かせてもらうか。パウラ、悪いが頼んでいいか?」
「はい、あなた様。アカス、ライム、いらっしゃい」
寝起きとは思えない美貌で微笑んだ魔物使いの女性は、赤いスライムたちを手招きする。
体からチラチラと火を吹き上げながら、二匹の魔物は指し示された男たちの足へとまとわりつく。
燃やされながら溶かされ始めた男たちは、わりと簡単に口を開いてくれた。
「また厄介な話になってきたな……」
十五分ほど嘆願と呪詛をスルーしながら聞き取りを続けた結果、分かったのは以下のような話だった。
まずこの男たちは、王都にアジトを構えるならず者一味らしい。
首謀者の名前はヴィム。聞き覚えはない。
もしかしたら偽名の可能性もあるが、こんな歓迎したくないイベント自体、元となったドラクロ2にはなかったので、全く知らない人物のようだ。
ことのきっかけは、連中の一人がハンスさんが王立錬成工房に荷物を届けるのを目撃したのが始まりである。
ハンスさんの跡をつけた男どもは、有名な商人のレオカディオの屋敷に入っていく姿も見届ける。
その後、レオカディオがとても高価な白照石のランタンを売り出したことで、ハンスさんがそこへ関わっているのではと疑われたわけだ。
そしてそのランタンの製作に関わったと考えられる錬成術士を探し求めて、ここまでたどり着いたという流れである。
ようやく、いくつかの点が繋がった感じがあるな。
「おかしな話ですね。前後が逆なら分かるのですが」
「ええ、届け物をしただけのハンス様を、怪しむ理由がわかりませんね」
「それは心当たりがないわけじゃないな」
執念深そうな元同僚の顔が、俺の脳裏に否応なしにちらつく。
ただ彼とならず者連中が、どう繋がったのかは不明であるが。
「まあ、今の問題はそこじゃなくて……」
「ええ、大丈夫でしょうか、ハンス様」
ちょうど王都についた頃であろう行商人を、遠い地から心配する俺たちであった。




