表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/148

思わぬ来客 その四



「ご領主様が……」


 真っ先に反応したのは、ディルク村長だった。

 領主の館に長らく勤めた縁から、この村の長を任された経緯があるので、人となりをよく知っているのだろう。

 俺もよく知っていると言うか、何度も戦ったことのある相手だ。

 むろん、こっちの世界の話ではないが。


 グヴィナー子爵。

 ドラクロ2の人類壊滅ルートでは、辺境伯ベルノルトとともにヴァルトルーデ女王へ反乱を起こし主人公側と対立する存在であった。

 

 いわゆる中盤辺りの山場である。

 が、中ボス風情と侮ると、手痛いしっぺ返しを食らう相手でもある。


 その要因となっていたのが、反乱軍に協力する傭兵団の存在だ。

 こいつらが強すぎるせいで、最初は皆同じ勘違いをしてしまうのだ。

 ……ああ、これ負け確定のやつだなと。

 で、ゲームオーバー画面が映って、愕然とするまでがお約束である。

 

 そして俺がルイーゼお嬢様の要望を即座に受け入れたのは、その傭兵団がラント商会のお抱えに近いからである。

 現に今回も馬車の護衛に、何人か随行していたようだ。

 それと酒場にそいつらの姿が見えないのは、雇い主とは同じ飯をできるだけ食べないという鉄則らしい。

 現実化したこの世界でも、厄介さは変わりないっぽいな。


「なんか面倒くせぇ話になってきたな」

「領主が相手ですか……。それは困りましたね」


 他国出身である獣人種と樹人種の二人も、ことの重大さは分かっているようだ。

 相手はこの地の正当な権利を持っているのだ。

 地下迷宮の存在がバレてしまえば、俺たちには為す術もない。


 強くなった村人たちが歯向かえば、それなりに対抗はできるかもしれない。

 しかし所詮は付け焼き刃であり、まともな対人戦をこなしてきた連中に敵うはずもない。

 魔物へは平気で剣を振り下ろせても、同じ人間だとどうしても躊躇が生まれるものだしな。

 

 だからこそ障害になりそうな相手を、今の段階で押さえておこうと考えたわけである。

 それに他にも手がないわけでもない。


「五月の建国祭のイベント。あれでハンスさんに一踏ん張りしてもらえば……」

「何かお考えがあるのですか? あなた様」

「ああ、水質浄化薬の使い途をやっと思いついてな」


 俺は考えをまとめながら、テーブルの面々を見回した。


「この件に関しては、俺に任せてください。ただ皆さんの協力も不可欠ですので、なにとぞよろしくお願いします」

「おお、さすがは頼りになりますな。なら私も頑張らせていただきます」

「おう、なんでも任せとけ、あんちゃん!」

「微力ですが、お役に立てるなら幸いです」

「私もできる限り、尽力いたします。ニーノ様、パウラお嬢様」

「ええ、どこまでもお供いたします、あなた様」


 上手くいく保証は全くないが、それでもやらないよりかはマシである。

 懸命に俺たちを引っ張っていった兄河童の姿に、俺は改めて強くそう思った。

 ついでに嬉しい報告もしておく。


「そう言えば河童たちが仲間になってくれましたよ」

「お、それはおめでたい話ですな!」


 すぐさま嬉しそうに反応する村長。

 水やりの手間を考えると、その気持ちは分からないでもない。


「あと、ちょっとした収穫もありましたよ。ウーテさん、そろそろお願いしてもいいですか?」

「ああ、いい加減に蒸し上がってるよ」


 待ち構えたようにテーブルに運ばれてきたのは、うなぎの蒸し焼きである。

 こっそり材料を渡して、頼んでおいたのだ。


「お、魚は久しぶりだな。美味そうじゃねえか!」

「これも魔物ですか?」

「はい、細長い見た目ですが、めちゃくちゃ美味しいですよ」


 蛇だと言っちゃうと、抵抗ありそうだしな。

 湯気の上がる大皿に手を伸ばした村長たちは、一口食べるといっせいにとろけるような顔になった。

 無言で目を合わせたあと、競うように再び手を伸ばす。


 いろいろと一度に明らかになった夜であったが、無事に最後はいい感じで締められたようだ。


 そう思いながら眠りについた深夜。

 小さいノックの音で、俺の意識は目覚めた。


 そっと扉を開けると、廊下に立っていたのはノエミさんであった。

 その肩には、黒い鳥が止まっている。


 俺の目を覗き込んだ魔物使いの女性は、静かに息を吐きながら用件を告げた。


「夜中にすみません、一緒に来ていただけますか? 誰かが村に入り込もうとしたようです」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] 水質浄化薬とてもけち 数日後に水が再び汚れます 稅金て領主にお得だけ 青濡石 雨生岩
[一言] 雇い主とは一緒に飯をできるだけ食べないという鉄則らしい。 貧しい食べる余裕がない、または村安全であるとても怠惰な 貧しい可能性が非常に高い 第一年は水がきれいではないため、水は非常に重要で…
[良い点] また一気に人材が集まってくる感
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ