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白焼き祭り



 結論から言うと、うなぎはやはり大水蛇であった。


 と言っても回収したアイテム欄の肉の名前がそうだからであって、やっぱりどう見ても蛇ではなくうなぎである。

 この現実化した世界は時々元となったドラクロ2との差異が生じているが、おそらくこの食い違いもそれの一つだろう。


 まあ名前が蛇であろうとも見た目はうなぎなので、きっと美味しいのは間違いない。

 なんであれ、ありがたくいただくのみである。


 すでに大水蛇襲来の騒ぎは落ちつき、新たに助けた河童たちは最初の河童たちと再会済みである。

 がっしり抱き合ったり嬉しそうな鳴き声を上げたりで、なかなかに感動的な眺めでもあった。

 あちこちで相撲を取る様子もあったが、もしかしたらあれも河童たちの親愛表現なのかもしれない。


 そんなわけで無事を祝う宴会をしようと思う。

 なんだかんだで、もう夕方近いしな。


 魔物から回収できたのは、大水蛇の肉が二十個と青魔石五個のみだった。

 巨体なためか複数の魔石が採れたのは嬉しい話だが、今回も骨や内臓はやはり無視されてしまったようだ。

 もったいないので肝だけは、取り分けておいた。


 うなぎの場合、血に毒が含まれており、生で食べるのは危険である。

 名前の通り蛇ならばその可能性は低いし加熱すれば毒性は消えるが、万が一を考えると用心に越したことはない。

 余った部位などは全て、火吹鳥のフキちゃんに穴を掘ってもらって埋めることにした。

 

 骨のほうは太く頑丈なため、用途はそれなりにありそうである。

 こちらは川岸に積み上げておく。


 それでは肝心のお肉の処理に移ろう。

 一個の大きさは俺が両手で抱えるほどで、まさに肉塊といった感じだ。

 断面から覗く皮膚の下の脂は真っ白でたっぷりの厚みがあり、美味さは完璧に保証されていると言っても過言ではない。

 

 早く食したいところであるが、問題は調理方法だ。


「でかすぎてカニの甲羅皿じゃ確実に溢れるな。それにできれば、焼いているところも見せたいしな」


 コマンドメニューの操作で肉を<加熱>か<燃焼>すれば料理自体はあっという間に完成だが、それはそれで味気がない。

 美味しい料理というのは、作る過程を見せることも立派な味付けなのである。

 だがわざわざ直に焼くのなら、それなりの準備が必要だ。


 見回した俺の目に飛び込んできたのは、河童たちが愛用している平たい岩であった。

 半分ほど川に突き出した形となっているその岩は、直径三メートルほどで表面はなめらかだ。

 

「うん、これでいけそうだな」

「にゃあ、どうするにゃ?」

「危ないから、ちょっと下がってくれ」


 まずは岩の表面を<浄化>。

 次に<加熱>して、温度をじょじょに上げていく。

 ひび割れる気配もないので、大丈夫っぽいな。


 十分に温まったところで、焦げ付かないよう翡翠油をまんべんなく伸ばす。

 そして、巨大な肉をどん!

 鉄板焼きならぬ、岩盤焼きである。


 たちまちじゅわっと音が鳴り響き、肉が焼ける暴力的な匂いが溢れ出した。

 皮がじわじわとよじれ、ゆっくりと溶け出した脂が音と匂いの両方を強めていく。

 串代わりに二本のナイフを側面から差し込んで持ち上げ、ぐるっとひっくり返して両面に焼き色をつける。

 切に醤油と砂糖が欲しいところだが、ここはシンプルに塩で味付けだ。

 

「これ分厚すぎたな……。見た目重視しすぎたか」


 厚みが二十センチ近いので、火の通りがやや心配である。

 時間がかかりそうだが、岩は十分に広いので並行して焼くことにしよう。

 最初のが焼けている間に、薄めに<切削>した肉をどんどん周りに並べていく。


 その辺りで遠巻きにしていた河童たちが、続々と近くに集まってきた。

 好奇心が旺盛なのか、俺のそばにぴったりくっついて覗き込んでくる。


「クパパ、クパー?」

「クパ! クパ!」

「クパパ!」


 火を使わない河童たちにとって、加熱調理は初めての体験だったようだ。

 試しに少し切り分けた肉を冷ましてから与えると、大人河童たちはこわごわとした表情を浮かべるだけで誰も口に入れようとしない。


 しかしすでに干し肉や雑炊を食べていたカッちゃんたちは、俺たちが出すものは美味しいものと認識ずみであったようだ。

 奪い合うように手を伸ばすと、ためらいなく口に入れてしまう。


 目をまんまるにしてその様子を見つめる大人河童たちを前に、子ども河童たちは相次いで跳び上がった。

 そして甲羅を地面につけて、手足をバタバタさせだした。


「にゃあ、もしかしてあの気持ち悪いの美味しいのにゃ!?」


 いつのまにか河童たちに交じっていたヨルとクウまでも手足をバタつかせる姿に、ティニヤが驚いたように声を上げる。


「ち、ちそー!」

「くくうううー!」


 大声を上げる二匹に、猫耳の少女はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「う、うちにも一口ほしいにゃ」

「ほれ、熱いから気をつけろ」

「フーフーにゃ。にゃ、にゃあああ! う、美味いにゃぁああ!」


 口に放り込んだティニヤだが、同じくその場で飛び上がり地面をコロコロと転がり出した。

 うん、やはりうなぎは偉大である。



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― 新着の感想 ―
[一言] 串打ち三年、割き八年、焼き一生
[良い点] そうか、タレがないから白焼き。 味付けまで工夫できたら乱獲が始まるかも
[一言] そう、冬はうなぎが一番おいしい時期なんだよね。 食べたい・・・。
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