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家族の再会



 大水蛇の正体が気にはなるものの、まずは河童たちの安否の確認が先である。

 急いで近づくと、弾んだ笑い声が聞こえてきた。


「クパッ! クパパ! クパパ……?」


 元気な声の主は、横たわる仲間たちに呼びかけている小柄な河童であった。

 火吹鳥と一緒に残してきたカッちゃんだ。


 どうやら騒ぎに気づいて、フキちゃんに連れてきてもらったようだ。

 感動の再会らしく、死んだふりを続ける河童たちを懸命に揺すっている。

 が、誰一匹目覚めようとしない。


 そりゃそうだ。

 見ていると先ほどから薄らとまぶたを開きかける河童が何匹かは居るのだが、そこで目に飛び込んでくるのはカッちゃんの背後から興味深げに覗き込む巨大な鳥の姿だ。

 即座に目を閉じ直して、死んだふりを続けるしかない。

 そこを教えようとしたら、顔を上げたカッちゃんが目を輝かせて走り寄ってきた。


「クパパッパパ!」


 嬉しそうな笑い声を上げて、俺の太ももにギュッとしがみついてくる。

 そして腰を落とし両足を踏ん張ったかと思うと、なぜかグイグイと押し始めた。

 なんとも可愛い仕草である。


 頭のすべすべした皿の部分を指で軽く撫でてやると、カッちゃんはくちばしの付け根の呼吸孔から小さく息を漏らしてくすぐったそうな顔になった。

 しかしすぐにハッとした表情になり、俺を見上げて手を差し出してくる。

 よく分からず首をひねると、カッちゃんはもう片方の手で横たわる仲間を指差しながら、もう片方の手を自分のくちばしに当てて何かを食べるふりをしてきた。

 その姿に俺は河童が独楽のように回っていた光景を思い出す。


「ああ、オリーブの実が欲しいのか」


 塩漬けの翠硬の実を取り出して、水かきのついた手に乗せてやる。

 小さく鳴き声を上げて、ペコリと頭を下げるカッちゃん。

 そして一瞬の躊躇もなく、自分の口へ全て放り込んだ。


 ガリポリと種ごと噛み砕き、非常に満足げな顔になる河童。

 それから空っぽになった手のひらをじっと見つめ、次に不思議そうに頭をかしげ、最後に俺に向けてまたも水かきを突き出してきた。


「いや、今食ったろ!」

「クパ!?」

「ふふふ、おバカなのも可愛いですね」


 パウラに頭を撫でられて再び気持ちよさげになるカッちゃんに、俺は仕方なく酒のつまみ用に残しておいた翠硬の実をおかわりで渡してやる。

 

「ほら、ちゃんと食わせてやれよ」

「クパ!」


 仲間たちのもとに戻ったカッちゃんは、兄河童と一緒に笑いかけながら塩漬けの実を河童たちのくちばしにねじ込んでいく。

 当然だが、火吹鳥は少し離れてもらっている。


 久しぶりの食べ物の効果は、てきめんであった。

 さすがにその場で回り出しはしなかったが、河童たちは次々とむっくり起き上がり驚いたように目を見開いている。


 そこへ幸福水の入った瓶を持ったヨルとクウが、すかさず目覚めた河童たちに一口ずつ振る舞っていく。

 背丈が同じくらいなため、狙い通り警戒は全くされなかったようだ。

 素直に水を飲んだ河童たちは、楽しげに大声で笑い出した。

 

「ふう、全員無事に助けられたようだな」

「にゃあ、ニーノ兄ちゃんはやっぱり凄いにゃ」

「素晴らしい手際でしたね、あなた様」

「いや、褒めるべきは兄河童だろうな」


 一番の功労は仲間の救出を諦めずに、俺たちをここまで引っ張ってきたあの河童である。

 しかも助けにならないと分かれば、自らを囮にしようとした勇敢さまで持ち合わせていたのだ。

 

 そう思いながら視線を向けると、兄河童はがっぷり四つに組み合っているところであった。

 相手は同じくらい大柄で、くちばしの上にモサモサとした髭が生えている。


「のこったー!」

「くー!」


 ヨルの仕切り声に、激しく相撲を始める二匹。

 周囲の河童たちも息を呑んで、その様子を窺っている。


 互いに一歩も譲らず、立ち合いから激しいぶつかり合いとなる河童たち。

 兄河童の初手の突っ張りをいなし、先手を取ったのは髭を生やした河童のほうであった。


 右の上手から兄河童の甲羅を鮮やかに押さえた髭河童が、体を捻って上手投げを決めようとする。

 腰を落として、ぐっと耐えてみせる兄河童。

 そこへさらに強く力を込め、相手の体勢を崩そうと試みる髭河童。


 だが、それも兄河童は足を残し辛抱強くこらえてみせる。

 激しい力比べとなる二匹だが、先に競り合いを維持できなくなった髭河童のほうであった。


 やはり長時間の死んだふりで、体力が底をついていたようだ。

 早めの勝負を仕掛けたのも、そういった理由からだろう。

 あっさりと力を失った髭河童は、兄河童にコロンと転ばされてしまう。


 その様子に勝負を見守っていた他の河童たちは、いっせいに笑い声を放った。

 一転して和やかな空気の中、地面に仰向けになった髭河童に、兄河童はそっと手を差し出す。

 そして二匹の河童たちは、ギュッと抱き合うと小さく鳴き声を上げ始めた。


 そこへカッちゃんも駆け寄り、さらにもう一匹の穏やかそうな顔の河童も加わって団子状態になる。


「クパッパ!」

「クパパパパ……」

「クパクパ!」

「にゃあ、まるで親子みたいにゃ」

「ああ、なんかよかったな」


 無事に再会できたようで、本当に何よりだ。

 さて、次はあの大水蛇をどうするかだな。




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― 新着の感想 ―
[一言] >そして一瞬の躊躇もなく、自分の口へ全て放り込んだ。 くやしい、こんなベタなボケで笑ってしまうとはw
[良い点] そりゃもう蒲焼の刑で。 生の鰻の血は毒ですし
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