異種族交流会
盛り上がりも落ち着いたところで平たい岩に上がってきたのは、先日見かけた腰に縄を巻いた河童だった。
まじまじとカッちゃんと見つめあった後、互いに駆け寄ってヒシと抱き合う。
「ク、クパパァ!」
「クパパパパ!」
心底嬉しそうに笑う二匹だが、よく似ているので血縁関係があるのかもしれない。
「歳はあんまり離れてない感じだな。親子じゃなく兄と弟ってとこか」
「にゃあ、酷いにゃあ」
「ゆゆしきー!」
「あなた様、カッちゃんは女の子ですよ」
「まじで!?」
女性陣に非難の目を向けられてしまったが、河童の性別とかどこで見分けるんだ?
水中の生き物らしく生殖器は外からじゃ見えないし、体つきとか髪の毛の長さとかか……。
勝手に兄河童と名付けた大柄な一匹は、岸辺に立つ俺たちにペコリと頭を下げてみせた。
仲間の河童たちも次々と岩の上によじ登り、俺たちをじっと見上げてくる。
どうやら害を及ぼす存在ではないと、分かってもらえたようだ。
「にゃあ、ちびっこ勢揃いにゃ」
「これで全員なのか? 思ったより少ないな」
全部で二十匹ほどである。
川面も見渡すが、他にそれらしい姿はない。
改めて河童たちへ視線を向けると、いっせいに無言で見返してきた。
そのつぶらな瞳は、なんというか結構な庇護欲をかきたててくる。
まさしく生まれたての子猫の群れを前にした心持ちだ。
つい固まってしまった俺に、苦笑したパウラが柔らかく尋ねてきた。
「いかがされますか? あなた様」
「そ、そうだな。雨も止んだことだし……、昼飯にするか」
見上げた天井は綺麗に晴れ渡っており、日差しの強さから時間もちょうど昼時のようだ。
俺の言葉にうなずいて、ゴブっちが平たい岩にゆっくりと近づく。
同じ妖精種な上に背丈も近いためか、河童たちも全く警戒しないようだ。
固唾を呑んで見ていると、ゴブっちはスタスタと岩の中央までたどり着き、背中の籠を下ろしながらどっしりと腰を落ち着けた。
そして籠の蓋を外し、中からおもむろにいくつかの干し肉を取り出す。
「ギヒヒヒヒ!」
いつもの高笑いを発したゴブリンは、干し肉を大きく齧り取って咀嚼したあとゴクリと呑み下してみせた。
本人は満面の笑みを浮かべているつもりだろうが、牙を剥き出しにして笑う姿は相変わらず邪悪そのものだ。
だが河童たちはちゃんとゴブっちの外見ではなく、中身を見抜いてくれたようだ。
恐れる素振りもなく近寄って、興味深げに干し肉や籠を見上げてくる。
そこへ細くちぎった肉を差し出すゴブっち。
ぱくりと咥えた河童は、くちばしをもぐもぐと動かして目を丸くする。
美味しかったようだ。
仲間のその様子に、他の河童たちもゴブっちのもとへ群がる。
我先にくちばしを開くその姿に、ゴブリンは耳元まで裂けた口から笑いを漏らしながら干し肉をせっせと配り始めた。
その周囲では飛び回る妖精のヨーを、一回り小柄な河童たちが懸命に追いかけている。
足取りがやや頼りないので、まだ幼い河童たちだろうか。
可愛らしい風景かと思ったら、ヨーが腰に下げた鞄から青い粒や赤いきのこをばらまいていた。
それを目当てに、後をついて回っているらしい。
どうやら妖精コンビは、一瞬で河童たちを懐柔してしまったようだ。
「にゃあ、あいつら食いしん坊にゃ」
「人のこと言えるのか? あんまり変わらなかったぞ」
まあ、食べ物の力はそれほどに偉大なんだろう。
俺たちも空腹を満たすべく、岸辺に座って食事を始めることにした。
濡れて冷えてきたので、蟹肉入りの麦雑炊を温めて二人と二匹へ順次手渡していく。
仕上げに黒岩茸を削って散らすと、美味しそうな香りが溢れ出した。
スライムたちには道中で拾ったカエル肉を与えておく。
留守番中の石肌蛙は仕方がないので、何かお土産でも持って帰ってやろう。
「クパ! クパパ!」
村で学習したカッちゃんは流石であった。
俺たちが飯を食いだしたのを見て、兄の手を引っ張りながらこっちへ近寄ってくる。
干し肉より美味しいものだと分かっているのだろう。
皿を差し出すと嬉しそうに受け取り、スプーンの使い方を兄に教えながら一口食べて笑い声を上げる。
次いでカッちゃんにフゥフゥと冷ましてから食べさせてもらった大柄な河童も、まんまるな瞳を大きく見開いてみせた。
交互に食べさせ合う兄妹の姿を見ながら、俺たちはのんびりと腹を満たしていった。




