結成、河童捜索隊
結局、会議では人手不足がより明らかになっただけで、大規模な探索隊どころではなくなってしまった。
むしろノエミさんが減ってしまったため、結果はマイナスである。
でも、せっかく見つけた土地を、手つかずで置いておくというのも本末転倒だしな。
十階の当面の目標は土を均すのと、活動の拠点作り。
あとは出来れば水源の確保だな。
開拓班のリーダーは魔物使いのノエミさんで、部下は次やらかしたら後がない若者五人に決まった。
道中の護衛も含めると、結構たいへんなのでいい鍛錬にはなるだろう。
今さらだが十階というのは、意外と交通の便が悪いのだ。
十一階以降なら直通階段で素早く行けるが、その手前の階は五階から延々と歩いていくしかない。
主要な各階にはそれぞれ誰か居るので階層主を倒すのにそう苦労はないと思うが、片道だけでも二時間は取られるし正確な地図もないので迷ったらそれこそ行って帰るだけで終わってしまう羽目になる。
おまけに道中で入手した素材なども、俺が居ないので一つ一つ持ち運ぶ必要があるしな。
それと人事異動に合わせて、パウラとノエミさんは使役魔をそれぞれ入れ替えていた。
火属性の赤スライムは戦闘面で相性がいいため、二匹とも探索班に貰い受ける。
代わりに地面を耕す大ミミズ二匹を向こうへ。
あとは伐採や運搬に便利な剣尾トンボを、現地で捕まえるとのことらしい。
そうなるとノエミさんの使役魔は突撃鳥二羽に森カラス一羽、火吹鳥一羽に、トンボ一匹に大ミミズ二匹と、やや鳥や虫系に傾いた構成になってしまったな。
逆にこっちはスライム四匹に蛙に河童と、よく分からない組み合わせである。
「それでは健闘を祈っておりますよ、ノエミ」
「はい、お嬢様」
地下迷宮の入り口で分かれた俺たちは十五階を目指す。
人数的にやや不安があるので、しばらくは無茶はせず河童たちとの交流が目的だ。
メンバーは固定の俺とパウラに、偵察を受け持つティニヤ。
後はおなじみのちびっこ従魔と使役魔たち。
それとパウラの使役枠に空きができたので、久々にゴブっちと妖精のヨーも一緒である。
二匹ともそれぞれ妖精探索網や弓士隊を率いて活躍中だったが、新たな妖精仲間が気になったらしく連れて行って欲しいと申し出があったのだ。
妖精同士なら俺たちより警戒されにくいだろうし、こちらとしても大助かりである。
「キヒヒヒヒ!」
「ギャギャギャ!」
「クパパパパパ!」
なんかよく分からない笑い声が響いてくるが、おおむね良好な関係を築いてくれたようだ。
十一階は青スライムのスーとラーが、十二階は赤スライムのアカスとライムが各々頑張ってくれたおかげでさっくりと進む。
驚いたことに石肌蛙の<擬態>や泥屍人の<潜伏>などは、妖精のヨーのほうが素早く見抜いていたりした。
「にゃあ、うちの出番がぁ」
「キヒヒッ!」
「あと、うちのお馬も取られたにゃ……」
「クパ?」
小首をかしげる河童のカッちゃんだが、ティニヤが村で乗り回していたのを何度も目撃していたのだろう。
石肌蛙をすっかり乗り物と認識してしまったようだ。
当たり前のように蛙のカーにまたがって、のん気な顔をしている。
そもそもカッちゃんには攻撃手段がほぼないため、見学だけなのも仕方ない。
<雨乞い>は水を浴びせるだけの技だし、近くに水源がないと使うことさえできないのだ。
一応、水気たっぷりの青スライムがそばにいるが、スーとラーがしなしなになると、今度はヨルとクウが落ち込んでしまうしな。
十三階からはゴブっちの弓も冴え渡り、ボス戦に関してはヨーのほぼ独壇場だった。
なんせ<目くらまし>と<妖精の接吻>だけで、あの不気味な大ナメクジを天井から落としてしまったのだ。
耐性の高さの勝利とも言える。
十四階も潜んでいる吸精蔦をことごとくヨーとティニヤが見破り、小鬼火はヨルとクウのおやつとなる。
そんな感じで昼前に到着した十五階は、またも雨模様であった。
ただし今回は一応、準備はしてある。
「にゃあ、これ何にゃ?」
「水はけのいい青スライムの皮を何枚か<接合>してみた。見た目はあれだが、これでさほど濡れないはずだ」
薄手のポンチョ型の雨合羽をイメージしてみたが、出来上がったのは微妙にくびれのある袋であった。
ぶっちゃけると大きな透明のゴミ袋に、首を通す穴を開けただけのやつにそっくりである。
そこへ白いスーパーの袋をかぶれば完璧だ。
「うう、もっと服っぽくなるはずだったんだが……」
「雨は十分にしのげますよ、あなた様。いつも気にかけてくださってありがとうございます」
パウラに微笑まれると嬉しい反面、もっと頑張らないとという気持ちになるな。
とりあえず俺たち三人とゴブっち、あとなぜかヨルとクウも着たがったので用意してやる。
頭身が短いせいで、二匹は意外と可愛く仕上がっていた。
雨嫌いの石肌蛙に入り口で留守番をしてもらい、ポツポツ雨に上機嫌となった河童のカッちゃんが先頭になって川を目指す。
草をかき分けながら進むこと十五分。
到着した川岸で俺たちが見た風景は、大きな平たい岩の上に寝っ転がって甲羅を雨に打たせる十数匹の河童の姿だった。




