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<第二九章 雑務魔法>

今回は話の区切りの都合上、少し短めです。

「義雄君、君の魔法はだいたい調べてきたが、まだ雑務魔法が残っているな。

 今日はこれをはっきりさせようか」


 教授の割り当て時間は本来俺が科学を教わる時間のはずだが魔法の話になることが多い。

 魔法の練習の進み具合を確認したり、疑問点を尋ねてきたりなどだ。

 割合でいう魔法が七に授業が三というところだ。

 そして、今日も魔法の話になりそうだ。


「雑務魔法とは何で、何種類あって、何ができるのか。

 それをまとめてみたい。

 着火、探知、探査、言語理解、視覚強化、成長は聞いた。

 それ以外を頼む」

「雑務は種類が多い。私が知らないものもある」


 物理、精神、空間、錬金に含まれないものは雑務に分類される。

 それで雑務は種類が多いのだ。

 中には絵の具の色を変えるという使い道の分からないものから、錆を落とすという少しは役に立ちそうなものまである。

 魔法使いが新魔法発見の栄誉や報奨を手に入れようとした結果、数が増えたのだ。

 それで雑務のほとんどは役に立たないものが多い。


「主なものは、着火、光明、探知、探査、言語理解、感覚強化、隠密、成長」


 実はもう一つ治癒魔法があるが、これは隠しておく。

 治癒がバレると仕事が増えそうな気がする。


「んっ、光明と隠密は初めて聞くな。

 それと視覚強化ではなく感覚強化なのか」

「光明は明かりをつける」


 俺は指先に光を灯してみせた。

 着火の光版みたいな魔法だ。


「視覚強化は感覚強化の一部。

 視覚、聴覚、嗅覚を強化できる。

 ただ、視覚強化以外はあまり使われない」

「そうだろうな、聴覚、嗅覚が必要になるのは一部の職業の人か、よほど特殊な状況だろう」

「隠密は気配を消せる」

「どんな時に使うのだ」

「狩りの時に使う。動物に気付かれない」

「それは人に対しても有効なのか」

「有効です。

 ただ、制限がある。声を出したら気付かれる。

 こちらが気付いていない相手には効果が無い。

 あくまでも相手の頭に働きかける魔法」

「ほう、それでも、使えそうな魔法だな」

「はい、それと教授は勘違いしていると思う。

 成長は種を発芽させる魔法ではない」

「陛下の御前で種から芽を出したと聞いたが」

「それは一部。

 成長は文字通り植物を成長させる魔法。

 発芽以外に開花にも使われる」

「植物の成長全般に使えるが、主に発芽と開花に使われるということか」

「はい、それと言語理解も少し違う」

「他国の言葉が分かるのではないのか」

「相手が人間、動物、植物の三種類ある」

「何っ! 動物、植物と話せるのか」

「動物はだいたいの気持ちが分かる。

 痛い、疲れた、腹が減った、暑い、寒いなど。

 植物はもっと簡単。

 暑い、寒い、水の三つくらい」

「それでも凄いではないか。

 この家でも犬か猫を飼うか。

 言葉が分かるなら飼いやすいだろう」

「私は人間の言語理解しかできない」

「そうか、それは残念だな。

 私は犬も猫も嫌いじゃないんだが」


 また、教授が意外なことを言う。

 小動物とか子供とか苦手そうなのに。


「他に私は使えないが使役もある」

「それは何だね」

「動物を使う。

 牛を柵の中へ入れたり、動物に芸を教えたりする」

「それも面白そうな魔法だな。

 使えないとはかえすがえすも残念。

 では、まとめると義雄君が使える雑務魔法は着火、光明、探知、探査、対人言語理解、感覚強化、隠密、成長の八個だな」

「そうです」

「あらためて数えると義雄君の魔法は多いな。

 物理魔法は火矢。

 精神魔法は念話。

 空間魔法は転移、連結、移動、浮遊。

 錬金魔法は抽出、分離、合成、変態。

 それに雑務魔法が八種類か……」


 教授が何か考え込む。

 きっと悪だくみをしているに違いない。

 また面倒なことにならなければいいなと思う反面、どんな突拍子もないことを言いだすか期待してしまう。


「ところで義雄君、能力の検証が一通り終わったので次の段階へ進もうと思う。応用だ」

「何?」

「前から考えていたのだが複数の魔法を同時に使うことはできないのか」

「えっ」


 それは考えことがなかった。

 魔法を掛けるには精神の集中が必要なので、複数の魔法を同時に掛けようとは普通思わない。


「この世界は地力が満ちていて、魔法に体力はそれほど必要ない。

 ということなら、複数の魔法を同時に使っても体力に余裕はあるだろう」


 よほど重い物を浮かせるとかでなければ体力に余裕はある。

 元の世界では術者の体力に制限されていた。

 上級の魔法使いは経験で効率を高めていた。

 若い魔法使いは体力を鍛えることで魔法の効果を高める。


「そうですが」

「義雄君は言語理解は常に使っているのだろ。

 その状態で普通に魔法が使えるなら、実質複数魔法を同時に使っていることにならないか」

「あっ」


 言われて気が付いた。

 そう言われたらそうかもしれないが、深く考えたことがない。

 他にも狩りのときなどは視覚強化した状態で隠密を使うこともよくやっていた。

 言語理解は意識しないで使っているものだし、視覚強化しながら他の魔法を使うことは普通によくやる。

 だが普通の魔法を複数同時に使うことはしない。

 それが当たり前だった。


「常識の盲点だな。

 どうすれば空を飛べるか考えていた時に思いついたんだが、浮遊で浮きながら自分に移動か転移を掛けることができれば、空を自由に移動できるのではないか」


 複数魔法さえできれば、たしかにできそうだ。


「これが私の考えた応用だ。

 この複数同時魔法が使えれば利用の幅がぐんと広がる。

 試してみたいとは思わないか」

「でも、簡単ではない」

「それは簡単ではないだろう。

 義雄君が考えたことがないということは、他にやっている人は居なかったのだろう。

 何事も初めてやるのは難しいことだ。

 だが、成功すると世界初ということになるぞ。

 努力する価値はあるんじゃないか。

 駄目で元々。時間がある時に試してくれんか」


 また面倒なことになった。

 教授は俺が思いも付かぬことを言ってくる。

 それがまた重要なことなので腹が立つ。

 でも、教授といると飽きない。

 次から次へと新しい発見がある。

 この複数魔法は魔法使いとして成長する好機だと思える。

 地力集めに集中が必要なツユアツではとうていできないだろう。

 この星だからこそできる。

 ここで複数魔法に慣れればツユアツへ戻っても使えるかもしれない。

 そうなれば俺は歴史に名を残すことができる。

 そう思うと少しやる気が出てきた。

 今度時間がある時にやってみようか。

 俺はそう考え始めていた。


次回更新は明日3/3(木)19時頃投稿の予定です。


書き溜めていた分が尽きてきたので、そろそろ毎日更新できなくなりそうです。

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