<第二三章 弟子の弟子>
今回は少し短めです。
病院の検査から数日後、教授が結果を教えてくれた。
「結果からいうと、この世界の人間との違いは見つからなかった。
というより、義雄君は白人よりも我々日本人に近い。
だが、あくまでも今の科学で分かる範囲でということだ。
将来的には何か違いが見つかるかもしれん」
俺としては見た目が同じなのだから当然という気持ちだ。
それより検査が辛かったことに教授が触れないことに腹が立つ。
「どうした、義雄君。
これはある意味朗報なんだぞ。
これで一つの仮説が出てくる。
義雄君以外の我々日本人にも魔法が使えるかもしれんということだ」
それは考えたことがなかった。
魔法が無いのだから誰も使えないと思い込んでいた。
「体の造りが同じなら、日本人に魔法が使えてもおかしいことはない。
義雄君一人でできる事には限界がある。
魔法をもっと効率良く使うためには魔法使いを増やせば良いということになる。
ということで日本人にも魔法が使えるかを検証したい」
たしかに俺一人ではできる事に限界がある。
他にも魔法使いが居れば毎日の作業が楽になりそうだ。
俺はこれから魔法の師匠として生きていけば良いことになる。
面倒な仕事は全部弟子に任せて俺は師匠マサウみたいに魔法の研究に専念する。
そしてツユアツへ帰る魔法を見つけるのだ。
これは試してみる価値がある。
教授に文句の一つでも言ってやろうと思っていたのに言う気を無くしてしまった。
本当に教授はずるい。
「ツユアツでは魔法使いはどのようにして選ぶのだ。
世襲制ではないと聞いたが」
「師匠が選んで養子で弟子にします」
「どういう方法で」
「分かりません。まだ習っていない。
師匠は私の体に触って何かして選んだ。
魔法使いは魔法との親和性が一番と師匠は言っていた」
「方法が分からないなら選べないな。
とりあえず試してみるしかないか」
教授が考え込む。
「義雄君、一番簡単な魔法は着火だったかな」
「はい、着火です」
そう言って俺は指の先に火をともした。
着火は一般人にも使用が許されている魔法でツユアツの大人ならだいたい使える。
「では、その着火魔法を覚えさせて一番見込みがありそうな者に魔法を覚えさせるか」
「それが良いです」
俺に早くも弟子ができる。
俺はちょっと浮かれていた。
秘密保持の観点からまずは正一、ハナ、静子、次郎の四人で試すことになった。
男二人に女二人でちょうど良い。
後日四人が魔法を使えるかの確認をすることとなった。
家の中庭に俺と四人が集まる。
庭には八月の暑い陽が照りかえっている。
「今日から魔法を教えます」
「よろしくお願いします」
四人が声を揃えて返事した。
なかなかよろしい。
「着火魔法を教えます。最初に私がやります」
指の先で火が燃えるが、俺の魔法を見慣れている四人は驚かない。
なんか悔しい。
「魔法の仕組みを説明します。
指の先、少し離れた所に火が燃えることを頭に思います。
やってください」
四人が真面目な顔で指先を見つめる。
「次、地力の流れを感じます」
「先生」
正一が手を挙げた。
「地力の流れをどうやって感じるんですか。
というか、そもそも地力とは何ですか」
そうか、そこからか。
少し力が抜けた。
「地力はこの星の力。
地面から出て、世界に満ちている。
それを感じる」
「いや、だから、その感じるってのが分からないんだよ。
風とかお日様とかなら感じるけど、それとは違うんだろ」
そう言われて困ってしまった。
地力の感じ方を説明できない。
よく考えたら俺自身誰かから習ったわけじゃない。
子供の頃から地力があるのが当たり前だった。
教わるでもなく地力を感じながら育った。
風が吹けば空気を感じ、太陽に当たれば暖かいのと同じだ。
人が音の聞き方、景色の見方を自然と身に付けるのと同じなのだ。
仕方ない。
魔法を使っていれば、そのうち感じるようになるかもしれない。
先に進もう。
「次は地力が体力と混ざり燃える物質に変わることを念じます。
はい、やってください」
「だから、その地力が分かんないんだけどなぁ」
正一がぶつぶつ言っているが無視する。
「最後、燃える物質に火が付き燃えることを考えます。
それで魔法が発動します。やってください」
正一はぶつぶつ何かをつぶやき、ハナは黙って指先を見つめている。
次郎は命令だから嫌々やってるのが伝わって来るし、静子は何を考えているのか分からない。
ただ時間だけが流れていく。
結果、誰もできない。
全員汗をダラダラ流しながら悪戦苦闘しているが魔法が発動する気配は全くない。
地力が全く流れていない。
魔法が発動する前には術者に地力が集まっていくはずなのに、地力はたゆたうだけで動いていない。
俺とこの星の人は同じに見えて実はどこかが違うのかもしれない。
元の世界でも魔法使いになれるのは数百人に一人とか言われていた。
だが、着火はほとんど誰でもできた。
早い人は一発で、普通は数時間から半日、遅い人で三日もあれば着火を覚えた。
なのに半日やって誰も着火ができなかった。
この四人は親和性が悪いのだろうか。
魔法の親和性が重要と師匠は言っていた。
実際、俺も師匠が調べて選んだのだ。
でも、肝心の調べ方が分からない。
その日の夜、教授にありのままを話した。
「義雄君が魔法を独占するために嘘をついている訳ではないと信用しよう。
となると四人がたまたま魔法を使えないのか、それともこの世界の人間は誰も使えないのか。
仮に義雄君の世界で着火を使える割合を九割と仮定しよう。
そうすると四人ともが使えない確率は一万分の一。
となると確率的には後者だろう。
残念なことだ。
私も魔法を使ってみたかったのだが」
教授がそんなことを考えていたとは意外だった。
また、教授の知らない一面を見た気がした。
半日で諦めるのはもったいないので、四人には一週間毎日一時間魔法の練習をしてもらうことになった。
だが、それでも誰も魔法を使えなかった。
これは本当に諦めるしかないようだ。
魔法の師匠になり楽をする夢はとても短いものだった。
次回更新は明日2/26(金)19時頃投稿の予定です。




