99.ルルの後ろ姿
日中、仕事を終えて色々と買い込み、帰宅する。
セリスに教えるため、そしてちょうど冷蔵庫が空になってきたので買い込みだ。
仕事は仕事。そして家庭は家庭。
両立しなければ。
エミリアが家に着いたのは昼過ぎぐらいであった。
「ただいまー……」
荷物がちょっと重い……。
野菜と貝類を買い込んできたからか。
リビングにいくとセリス、フォード、ルルが一緒に絵本を読んでいた。
エミリアに気づいた皆がぱっと振り返る。
「おかえりなさいですっ!」
「お母さん、おかえりー……わぁ、すごい荷物だね」
フォードが目を丸くする。
彼も驚くくらいの量ではある。
「うん、ちょっと買い込んじゃって」
「きゅいー!」
とてとてとてーっとルルがダッシュ。
そのままルルがエミリアの足元に来て、両方の羽を掲げる。
「きゅっきゅい!」
「……持ってくれるの?」
「きゅーい!」
可愛い……。
しかしエミリアでも持つのに苦労する荷物だ。
全部はとても無理そうなので、大袋からにんにくの小さな袋を取り出す。
「じゃあ、これをキッチンまで運んでくれる?」
「きゅい!」
にんにくの袋を掲げながら、ルルがキッチンまでダッシュしていく。
ぽにぽに……。
うーん、羽を掲げたままのルルの後ろ姿、いい……。
「お母さん、僕も持っていくよ」
「私もやります! どこに入れるかを教えてくれれば……」
「ありがとう。そう、入れるのも教えなきゃと思って」
「おおっ、そうですね! ありがとうございます!」
セリスもすっかり馴染んでいる気がする。
ウォリス人であるセリスとエミリア、それにフォードはやはり相性が良いのだろう。
セリスは一見すると神経質そうな外見だ。
整えられた鮮烈な赤毛に厚めの眼鏡。服装もぴっしりと隙がない。
イセルナーレの一般市民は真夏の今、かなり薄い服を着る。
フローラやグロッサムも例外ではない。仕事場でも相応に薄着だ。
一方、セリスは今になっても肌の露出をしておらず、その意味でも硬い印象を受ける。でも中身はかなり芯があって豪胆だ。
(未知のものに対する好奇心、核にある心も強いのよね……)
解体作業もちゃんとこなして、学習も速い。
今のところはとても良くやってくれている。
(もし心に問題が出ると、魔術にも支障が出るかなと思ったけれど、それもないし)
ルーンの消去と精霊魔術は無我の集中が大切だ。
心が必要以上に乱れていれば、どこかに出てもおかしくはない。
目安に過ぎないが、とりあえず悪い兆候はなさそうだ。
で、キッチンで買い込んできた野菜の保存をレクチャーする。
「えーと、葉のついている野菜は……切り離してから冷蔵庫に入れたほうがいいわね」
「ふむふむ……。にんじんなどですね」
「そうね、キャベツやレタスも芯は抜いたほうがいいかも」
セリスの手がすすっと包丁に伸びそうなのを、エミリアが制止する。
「……葉モノを保存するときは包丁は使わないほうがいいわ」
「そ、そうなんですか?」
「金属と触れると劣化するの。食べる時はすぐだから気にしなくてもいいんだけど。保存の時は手で芯を――」
こんな感じだ。
料理本にも載っているかどうか、ギリギリのラインである。
(でも数量的なことは多分すぐ習得できるしね)
塩が何グラムとか、水が何リットルとか。
そういう計量的な事柄は問題ない。
問題はこういう……家庭の知恵的な話なのだ。
「……で、こうやって処理した野菜は保存と。残った葉や芯はどうするのです?」
「頑張れば食べれないこともないけれど。捨てちゃってもいいわよ。燃えるゴミは明日ね」
家庭人の性。
ゴミの出す日で曜日を認識する。
そこでセリスが仰天発言をかました。
「おー……ゴミを曜日に応じて収集すると聞いたのですが、噂は本当だったのですね……!」
「…………」
無理もない。セリスは大公家のお嬢様なのだから。
ウォリスの貴族に曜日ごとにゴミを出す、などという習慣はない。
今のホテル暮らしでも同じだろう。
ゴミ箱にシュートすればそれで終わりだ。
エミリアも前世の経験がなければ、すぐには適応できなかっただろう。
にこりとエミリアが微笑む。
「その辺もちょっと説明するわね」
教えることは本当にたくさんあるのだ……。
きゅー! (*´꒳`* っ )つ三
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