表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-2 残されたモノ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/308

93.遺したもの

「……母はここに来ていたんだな」


 ロダンの小さな呟きが波間から聞こえる。

 愛情と郷愁の響きだ。


「君がアザラシを転がさなければ、気づかなかっただろう。感謝する」

「どういたしまして」


 エミリアは言いながら、精霊アザラシの背中を撫でる。

 ちょっとつるっとして温かい。ルルとは違う、癒しの触感だった。


「で、何て書いてあるかだけど……」


 エミリアとロダンは床へと顔を近づけた。

 刻まれているルーンがかなり小さいので、必然的に髪が触れ合う距離だ。


 星降る夜、海へ船で。ふたりきりであっても。

 これでドキドキするような関係ではない……。


「暗号化はされてないな、どれ……」


 ルーンの文字は小さいだけで普通に読み取れた。

 ここまで来た人間に暗号は不要、ということか。


『私は罪を犯しました』


 魔力の質と筆跡はマルテのものだった。

 だけど、意味がわからない。懺悔から一文が始まっている……?


 ふたりはそのままマルテの文を読み進める。


『長い探索の末、私はこのルーンに辿り着きました。ですが、私には資格がなかったようです。結局のところ、私には理解できませんでした――』


 エミリアはぎょっとした。


 てっきりマルテはこの石板のルーンを読み解いたものだと思ったのに。

 そうではなかったらしい。


 ということは、この石板を読み解いたのはエミリアが初ということだろうか?

 その前にも読んだ人間がいるのだろうか。


『この古代ルーンは公開されるべきですが、私にはできませんでした。イセルナーレと世界の安全を考えた時、何が起きてしまうのか。私にはその責任を負えません』


 ……エミリアは言葉の意味を考えていた。

 確かにこのルーンは他に類するものがない、遺産だ。


 でもせいぜい過去の情景を映し出すだけ。

 どうせ、あと数十年もすれば写真だって映画だって出てくる。


 北の諸国ではもう実用化間近だとも……。

 このルーンで何かが大きく変わるとは思えなかった。


 しかしそれはエミリアの知識と感性だから判断できることだ。

 ロダンはずいぶんとこのルーンの影響を気にしていた。


『それゆえ私はこの探索が何をもたらしたのか、できる限りの結果を信頼できる貴族、ロンダート男爵へ託します』


「えっ……? ロンダート男爵って……!」

「今のブラックパール船舶だな。だが、母が生きていた頃の先代ロンダート男爵はもう亡くなっている。イヴァン・ロンダートが聞いているなら……」


 なんてことだ。

 結局、イヴァンの元に集まっているなんて。


 いや、これは因果が逆だとエミリアは思った。

 この遺言は間違いなく、ブラックパール号が沈む前の懺悔なのだから。


 15年経過してもイヴァンはマルテと父からの遺言を実行している。

 あの昼食の時に聞いた、熱意と執念のままに。


 床のルーンはもう終わりに近づいていた。

 残る文章はふたつだけ。

 

『最後にこのルーンを見つけてくれた知恵ある人へ。もしロダン・カーリックが生きていたらずっと愛していたと伝えてください――』


 ルーンの文字列が震えて歪み、切ない愛情が伝わってきた。

 別れの文というにはあまりにいじらしく、胸が張り裂けそうになる。


 このルーンを刻んだマルテは、きっと心優しい人だったのだろう。

 最後まで息子を想っていたのだ。


「……母さん」


 エミリアの瞳に涙が集まってくる。

 年齢を重ねると、こういうのが駄目になってしまう。


 ああ、どうしても涙が抑えきれない。

 自分が泣いてどうするんだ。

 

 でも……やっとだ。

 15年振りにロダンとマルテが再会できて――。


「ロダン……」

「君が泣くな」


 エミリアの瞳からこぼれそうな涙をロダンが指で拭う。

 白い魔力が涙越しに伝わって、エミリアの心を満たす。


 感謝と惜別。

 別れを伝えられなかったふたりの想いが交差していた。


「……母は俺を愛していたんだな」

「そうだよ。うん……!」

「遺体もなく、母がいなくなり――どこか今まで、夢のように感じていた」


 ロダンが静かに言葉を紡ぐ。

 それはきっと、彼が他の人に言ったことのない感情だったのだろう。


「母は…………もう去っていたんだな。やっと納得できた」


 エミリアがロダンの腕を取る。

 そっと寄り添いたい気持ちでエミリアの心はあふれていた。


 残るルーンも、あと一文だけ。

 それはマルテの署名だった。


『許されざる墓堀人のマルテ』

【お願い】

お読みいただき、ありがとうございます!!


「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、

『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!


皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!

何卒、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! ここまで来て、初めは此処が嵐の発信源見たいな秘密基地みたいな所かなと思ったら、過去も過去の大昔の秘密の場所だとは! しかし、文章的に此処が母の最後の場所?なのかな? 見つ…
切ない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ