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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-2 残されたモノ

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88.ふたつの首

 ここからでは暗い海と島しか見えない。

 だが、思ったよりも早く到着した。


「まずはふたつの首か……」


 マルテの遺した『アルシャンテ諸島 月の交差する岩壁 ふたつの首』という言葉。


 ふたつの首がアルシャンテ諸島の小さな双子島というのはわかっている。


(それ以外は現地調査なわけだけど……)


 ロダンは島々に近づくにつれて船の速度を落とす。

 ゆったりと島に向かいながら、ロダンは照明を強くした。


「確かにふたつの首だね」


 ぱぁっとした明かりが島の岩壁を映す。

 海から突き出た白の岩壁、その頂上の茂み……首と頭に見えなくもない。


 ふたつの島は100メートルも離れておらず、今の位置からだと両方の島ごと視界に収まる。


 白の岩壁は積み重なるような構造で、道具がなくとも上には登っていけそうだ。

 

 全体の高さは15メートルほどか。

 夜の島はぞっとするほど美しい。


「問題は上陸する場所だな」


 ロダンが船を操り、ふたつの島を一周する。

 見たところ、どこも岩壁だ。

 上陸できそうな場所がないと大変だ。


「んっ……?」


 島の岩壁、波に紛れて魔力の気配がわずかにする――さほど大きくはない。

 確信はないが海に住まう精霊ではないだろうか。


「……精霊の気配がする」

「ほう、どこだ?」

「ちょっと待ってね」


 船の速度がさらに落ち、その場で停止する。


 海が内包する魔力は大気よりもずっと多く、精霊を探るのに集中を要する。


 波の揺れ、蒸気タービンの音がすっと小さく遠ざかる。


 魔力の痕跡は見つけているのだ。

 焦らず、息を整えて集中すればいい。


 ――数十秒後、島の岩壁にはっきりと精霊を捉えた。

 ここから見えない、反対側の岩壁に張り付いているように感じる。


 エミリアは精霊のいる方向をまっすぐ指で示した。


「この指の先、島の反対に精霊がいるわ」

「素晴らしい感知能力だ。集中したが俺にはわからなかった」

「そ、そう?」

「暗号に関係するかもしれん。確認しておこう」


 精霊の位置を探るのに、エミリアとロダンでそこまで差があるのだろうか。

 むしろ海に慣れているロダンのほうが気づいてもおかしくないと思うのだが。


 船がゆっくりと再始動し、前進する。


「ちなみにどんな精霊かはわかるか?」

「うーん? 魚……ではないわね。ちょっともっちりして太めというか」

「……太め?」

「パプリカみたいな、あれよりずっと大きいけれど」

「あんな体型の生き物がいたか……?」


 エミリアも自分の感覚に自信はあるが、海の魔力に邪魔されてこれ以上はわからない。

 あとはちゃんと視認してみないと。


「まぁ、寄せてみるか……」


 船はロダンに任せるしかない。

 ぐるっと島を回り込み、ロダンが目標地点に近づく。


 さっきのちょうど反対側の岩壁だ。

 打ち寄せる波の白い岩壁。距離にして80メートル前後。

 

 エミリアの示した地点を船のライトが照らす。

 ……だが、そこには何もない。


「あれれ?」


 おかしい……近づいた分、精霊の気配ははっきりわかる。


 間違いなく視界に入っていないとおかしいのに。

 肝心の精霊の姿が見当たらない。


 こんなことは初めてだった。

 戸惑いと焦りがエミリアの心を満たす。


「私の感覚がおかしい……? ロダンはど、どう?」

「俺には精霊の気配は感じ取れない。だが、君の感覚が間違っているとは信じられん」


 ロダンがさらに船を寄せた。

 岩壁のすぐ真横まで船が近づく。


 精霊まで距離にしてもう20メートルもない。

 にも関わらず、やはり精霊はいない。


「そ、そんな見つからない精霊に固執しなくても……。本当に私の勘違いかも」

「……精霊自体はどこにでもいるかもしれん。しかし、この島が目的地のはずだ。どんな些細な異変も見逃したくはない」


 ロダンははっきりと言い切った。

 船を停めたロダンがエミリアの前で少し屈む。


「まだ気配はするか?」

「う、うん……あのすぐそばの岩壁ね」


 エミリアが自信なさげにロダンの後ろを指差す。


 やはりそこには何もない。

 波しぶきに濡れた島の岩壁があるだけだ。 


 ちょっとしたでっぱりがあるが、それだけ。


 精霊の気配は――いや、ちょっと待て。

 さらに接近したことで精霊の正確な位置がわかってきた。


「これは……」


 距離が離れると精霊の感知にも誤差が生じる。

 逆に近づけば近づくほど、感知も正確になるわけだが。


 今のエミリアの感覚だと、精霊の気配がもう少し奥に感じる。

 波に揉まれた岩壁の外ではない。そのさらに内側だ。


「岩壁の中に気配がする……?」

「……どうやら仕掛けがあったようだな」

「で、でもそんなことって」

「ちょっと待ってろ」

「あっ……!」


 止める間もなくロダンが船上を駆けだし、跳躍した。


 普通なら海に落ちるところだが、エミリアはロダンの靴とコートに魔力の反応を感じ取る。

 強力なルーンの装具だ。


 恐らくは脚力の強化と滑空のルーンか。

 ロダンは10メートル以上も優雅に飛び、岩壁のでっぱりへ綺麗に着地した。


「目星がついているなら……」


 ロダンが岩壁を調べる。

 数分後、調べていたロダンがあるところで手を止めた。


「ここか」

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― 新着の感想 ―
もっちり 太い パプリカ ……アレかな? 捕食されないように丸くなる、皮の固い魚。
緊張感のあるシーンなんですが、なんか可愛い精霊の予感がします! パプリカな魚とは?
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