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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-2 残されたモノ

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83.海に祈りを

 真の男は恐怖を知らない。

 なぜなら、足元に地獄があることを知っているから。


 実際、イヴァンはそうだと思っていた。

 15年前、13歳になるイヴァンは恐怖していた――。


「それはまだ、僕が未熟だから」


 海には常に死がある。

 イヴァンはどうしてもその考えを振り払えなかった。


 どれほどの航海術があって大型船に乗っていても、その事実は船に乗る限り逃れられない。


 あの日、あの時。

 波間からカローナ連合の海軍が現れ、イヴァンは真の恐怖を知った。


 ロンダート船舶に所属する屈強の船員が騒ぎ、慌てる。

 イセルナーレの最新鋭の軍艦に匹敵する船影が20隻以上。


「おい! ありゃ……カローナの海軍だ!」

「馬鹿な……こっちに来る!」


 蒸気の黒煙を上げ、カローナの軍艦が船団へと一直線に接近してくる。

 それはあり得ない光景だった。


 カローナ海は広く、接近してくる理由などない。

 あれほどの艦隊がイセルナーレの船団に向かってくるとなれば……。


「……戦争だ! 奴ら、やるつもりだ!」


 誰かが叫んだ言葉。

 その言葉の意味が広がるにつれて、船上は恐慌状態に陥った。


 同行するイセルナーレの軍船はたった3隻。

 カローナの艦隊に狙われればひとたまりもない。


 逃げるにしても性能が違いすぎる。

 向こうは軍艦で、こちらは商船。しかも荷を積んでいた。


 今から荷物を捨てて軽くしようにも、間に合うはずがない。

 しかも空は快晴、カローナの恐怖の汽笛が耳を澄ますと聞こえてくる。






「そ、それがどうなったのですか?」


 臨場感たっぷりに話すイヴァンにエミリアが前のめりになって聞いてしまう。


「……そこに嵐が現れたのです。何年かに一度、いいえ……10年に一度の大嵐だったでしょうか」


 ふたりの元にはメインの肉料理が運ばれてきていた。

 牛のフィレステーキだ。そこに赤ワインとガーリックのソースがたっぷり……。


 話のクライマックスに乗せられるまま、ナイフで肉をカットして食べようとしてしまう。

 イヴァンも食べているから、これは緊張をほぐすための会話なのだろうが。


「それで、実際の衝突には至らなかったのですか」

「ええ……あの嵐のおかげでカローナ海軍は撤退していきました。絶体絶命でしたね。そしてあれ以来、カローナ連合も緊迫の緩和に動いてくれました」

「攻撃が失敗したから……?」

「多分、そうでしょう。あの行動はカローナ連合にとっても賭けだったはず。それが不首尾に終わったので、主戦派も勢いを失くしたのだとか……」


 本当にぎりぎりの場面だったわけだ。


 ナイフがすっと肉に入る。とても柔らかい。

 フィレステーキからじゅわっと肉汁がしたたる。

 

 久し振りのステーキかもしれない。

 んむっとステーキを頬張ると……懐かしい思いにとらわれる。


 この赤ワインとガーリックのソースには覚えがある。

 アルコールで喉を潤し、つけあわせのマッシュルームへ。


(……やっぱりだ、ウォリスの味がする)


 イヴァンが大陸コース、と言っていたのはこれかとエミリアは得心した。

 メインの料理がウォリスの食材と調理法を使っている。


 厳密にはイセルナーレの香辛料などが入っていて、より洗練されているけれど。


「ですが、犠牲はありました。ブラックパール号は嵐の中、殿を務めて……結局、帰っては来なかった」

「…………」

「それからロンダート船舶は、ほどなくしてブラックパール船舶に名前を変えました。会社一丸となって、あの船を忘れないように」

「だからあのブラックパール号の引き上げと解体に全力を尽くすのですね」

「ええ、まさしく……。海軍から除籍されても、あの船はまだ海底に沈んだまま」


 最後のデザートがやってくる。


 ひんやりと冷たい、メロンとブルーベリーのシャーベットだ。

 この世界で真夏のシャーベットはまだ高い。


 シャーベット自体もふんだんな果汁が爽やかな後味を残してくれる。


 話に夢中になっていると、いつの間にか外の雨は止んでいた。

 明るい日差しがさっと雲から差し込んでいる。


 イヴァンの整った顔、その奥にある苦労と覚悟。

 だから沈没船の引き上げ、解体という途方もない事業を遂行するのか。


 コース料理が終わり、ふたりはレストランを後にする。

 すっかりお腹も満たされ、アルコールが気持ち良く体内を巡る。


 グラス数杯を空けても、エミリアは全然酔っていない。

 思った以上に頑強な肉体だった。

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― 新着の感想 ―
ペンギンパワー私もいただきました(笑) ペシペシぺし(笑) (*´ω`*)
その嵐は自然発生したモノだったのでしょうか? 何だかあまりにも都合が良過ぎて……。
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