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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-2 残されたモノ

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81.ウェストスター

 笑みにまったくの他意はない。

 100%の善意だ。


 ランチをおごるというだけ、ただそれだけの話なのに。

 エミリアの動きが一瞬、固まる。


(……夜、ロダンと会う話になっているんだけど!)


 まさか、そんな長時間はかからないだろうが。

 でもイヴァンも貴族だ。貴族式の昼食とは、どの程度なのだろう。


「おや、ご迷惑でしたか?」

「いいえ! そんなご迷惑だなんて……!」


 イヴァン自体に嫌な気持ちはまったくない。

 むしろエミリアの中で彼の好感度はかなり高いほうだ。


 仕事ができて、他国人で年若い自分にも極めて丁寧。

 顔の造形だって所作だって……貴族的な高貴さがありながら、とっつきづらさはない。


 前世の基準でもトップクラスのイケメンだ……。

 エミリアはイケメンに弱い、ということはない。


 元夫のオルドン公爵も()()()()()()()()()()は良かった。

 だけど、中身はとんでもない男だ。

 結局、外面の良さと内面は比例しない――骨までしみる教訓がある。


(ああ、でも元夫と無意識に比べるなんて……失礼だっ)


 イヴァンと元夫は似ても似つかない。

 ……むしろ、悪いのはエミリアのほうだ。


 イヴァンに内緒で暗号のルーンを消している。

 今日の夜だって、その件でロダンと会う。


 そう思うと、エミリアには後ろめたさがある。

 ランチくらい同席してしかるべきでは……。


 心の暗がりを振り払うようにエミリアは微笑む。


「ぜひとも、お願いします」

「はい、では参りましょう」


 イヴァンが白い手袋に包まれた手を差し出す。

 細くて、一切の染みがない。


 傘に雨粒がとめどなく当たる。

 どこか、遠くで雷鳴が聞こえてきた。




 イヴァンは自ら、黒塗りの傘を差してエミリアをエスコートする。

 ただ、距離はさほどでもなかった。


 昼食の場は西の港のウェストスターという高級レストランだ。


 入り口には銛の勇者の繊細な彫像が置かれている……。

 王宮で見た彫像と遜色ないレベルだとエミリアは感じた。


 中は照明を抑え、白亜の石壁が彩る。

 外は雨だが雑音は聞こえず、陽だまりにいるかのようだ。


「どうぞ、奥へ」

「ええ……」


 失礼のないように公爵令嬢の笑みと優雅さを演出する。

 イセルナーレに来てからも、完全に忘れることのないようにしているおかげで多分、無様なことにはなっていないはずだ。


 初老のウェイターが敬意を込めてふたりに向き合う。


「ロンダート男爵様、今日はいかようにいたしましょう」

「エミリアさんは苦手な物はございますか?」

「ああ、いえ……特にございません」

「では季節の大陸コースを」

「承知いたしました」


 露骨に高そうな店、そしてコースのみか……。

 好みのドリンクは別途、値段を見ないで頼まなければならないタイプの店だ。

 自分で払わないとはいえ、気をつけなければ。


 ウェイターがオレンジ色の炭酸弾ける食前酒を持ってくる。

 イセルナーレで今、流行っているカクテルだ。


 エミリアとイヴァンはそれぞれグラスを持ち、掲げた。

 イヴァンがそっと透き通る声を出す。


「イセルナーレの海に」

「この出逢いに」

 

 エミリアの答えは国際的な定番文句だ。

 くっと食前酒をエミリアは口に含む。


 豊かな柑橘の風味、そしてすっと抜けるハーブ。

 根菜が醸し出す大地の香り、わずかにレモネードも入っている……。

 食前酒としてはぴったりだ。


「イセルナーレのアルコールはお口に合いますか?」

「ええ、とても……この国は何でも美味です」


 これは噓偽りないエミリアの感想だった。

 

(本当においしいお酒だけど……気をつけないと)


 エミリアは実のところ、かなりの酒豪である。


 ウォリスでは15歳から飲酒が可能だ。

 何かの機会にかこつけて飲むことも多い。


 イセルナーレは18歳から飲酒が可能で、その差は大きい。

 しかもロダンを見る限り、日常的に飲む風潮はウォリスよりないと思われる。


 ……にしても久し振りのアルコールだ。

 公爵夫人だった頃は、飲む機会自体はあった。

 イセルナーレに来てからは初めてじゃないだろうか。


 すぐに前菜も運ばれてくる。


 タコとイカのマリネ、小さなガーリックトースト、アンチョビ……。

 どれもお酒が進んでしまう小皿だ。残してしまうなんてもったいない。


(ここまで来たら……!)


 覚悟を決めよう。

 酔いはしない程度に、飲んで食べるしかない!

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|イヴァンは自ら、黒塗りの傘を差してエミリアをエスコートする。 ( ・ω・)∩シツモーン 黒塗りの傘って、どの部分が黒く塗ってあるのでしょうか? (石突きを含めた)中棒 骨 ハンドル 布地 全部
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