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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-2 残されたモノ

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75.料理の心得

 ロダンに案内されたのは、海にほど近いコテージだった。

 外からはこじんまりとして見えるが、中は意外に広い。


 これは外壁をルーンで補強し、壁材を減らしているからだろう。

 大金が必要になるが、これなら耐久力を維持しつつ床面積を増やすことができる。


「借りて、ほとんどそのままだ」


 赤と青のタペストリー、ヨットの絵、イルカ君のぬいぐるみ……。

 爽やかで明るい色の木目の内壁。どう見てもロダンの趣味ではなかった。


「すごく良いと思う。家族向けって感じ」

「まぁ……そうだな。観光客向けだ」


 ロダンがキッチンに立って、冷蔵庫を開けた。

 彼だけにやらせるわけにはいかない。


「私もやるから」


 エミリアも慌ててキッチンへ向かおうとする。

 ロダンがふっと笑った。


「君は客だ。座っていてくれ。飲み物はレモネードでいいか?」

「……もちろん。ありがとう」


 この世界では王冠で封をした炭酸飲料がすでに存在している。

 とはいえ、現代日本と違ってさほど安くはない……。


 1本2000ナーレ、円換算で1本4000円もする。

 日常的に愛飲する人は余裕のある人だけだろう。


 コテージはリビングとキッチンが近い。

 椅子に座ったエミリアはセリスの件があったので、まじまじとロダンの手元を見てしまう。

 

 しかしロダンは慣れた手つきで王冠を外すと、グラスを持って戻ってきた。

 ……ロダンの目が不審がっている。


 じーっと見ていたのがバレていたようだ。


「視線をずっと感じていたのだが」

「どきっ」

「俺が何か失敗すると思ったか」

「どきどきっ」


 全部、お見通しだった。

 仕方ないので、レモネードを飲みながらセリスの料理の件をロダンに白状する。


 炭酸飲料はほのかにライム、そして濃いめの蜂蜜味だ。

 暑かった身体に水分を取り入れながら……。


「――というような感じで」

「ふむ、イセルナーレの貴族では考えにくい話だ。どんな階級の貴族でも、料理の心得はある」

「そうなの?」


 それはエミリアにとって初耳だった。

 確かに、留学時代のロダンは野外実習でちゃんと料理できていたが。


 グラスのレモネードを揺らし、ロダンが窓の外の海を見る。

 ここからだともう、海がほど近い。


「イセルナーレの貴族にとって船旅は日常のこと。万が一、船が座礁したり漂流したら……料理の知識がないことを後悔するだろう」

「そうね……」


 海のないウォリスでは船旅のことまで考えない。

 水泳自体もマイナーと言える。


 だが、イセルナーレではやはりあるのだろう……。

 ロダンの母、マルテしかり。


 船がより大きく、海の交通が安全になったとしても。

 危険は存在しうる。


 その時に生死を分けるのは、衣食住に直結する知識と技能だ。


「さらにイセルナーレの騎士の場合はより隠密性、独立行動性が求められる。俺の場合、小隊を率いて半月程度は山に(こも)れるからな」

「そ、そこまで? ……なんで?」

「端的に言えば、敵地の精霊魔術師を暗殺するため」

「ぶふっ」


 思ってもみなかった答えにエミリアがむせる。

 レモネードをこぼさなかったのが、淑女としての最後の抵抗だった。


「そ、そうなの……?」

「どの国でも最大戦力は精霊魔術師だ。魔術師に対抗できるのは魔術師だけ。当然の帰結だが……」


 言われて、エミリアが唇を曲げる。


 精霊の力は恐ろしく強大だ。

 かつて戦乱の時代、ウォリス王国は精霊を操って大戦果をあげた。


 蒸気も火薬もなかった時代、巨大精霊の力に対抗できるモノはない。

 精霊魔術師が戦場における覇者だった。


 モグラの精霊は山を崩し、魚の精霊は洪水を巻き起こす。

 大鷹の精霊を操って敵の司令部に突撃させれば、どんな将軍も逃げるしかない。


 しかも魔術師を見分けることは魔術師にしかできない。

 ウォリスの南に位置するイセルナーレとしては、当然の国策だった。


「というわけで、イセルナーレの貴族は一般的に料理ができる。軍属の魔術師ならなおさら、サバイバルの知識も必要だ」

「うーん、ウォリスとは全然違う……」


 ということは、今のロダンも料理ができるということ?

 食べてみたい気もするが……そんな機会は当分なさそうだ。


「セリス嬢も不器用でなければ、すぐに料理はできるようになると思うがな」

「そうね、私も教えるし」

「……君が? 大丈夫なのか」

 

 あっ……とエミリアは思った。

 この流れだとエミリアの料理の腕のほうが心配されるのは当然だった。


 正直、私の料理は前世の記憶によるところが大きい。

 前のままだと確かに、かなり苦労しただろう。


「大丈夫よ! 色々と作れるんだから!」

「ふむ……まぁ、それならいいが」


 ふたりがグラスのレモネードを飲み切る。

 真夏を歩いた熱も落ち着いてきた。


 ロダンもそれは同じだ。

 そろそろ本題に入る時間になっていた。

ここのレモネードはサイダーのようなものです。

日本でも明治末期には密封したサイダーを飲む習慣が始まりました。

当時はお歳暮やお中元にも人気の品だったそうです。


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兵庫に炭酸が湧き出る場所があるらしいですしねえ(ウィルキルソンの地
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