71.クレヨンとルルのお腹
翌朝、フォードはもぞもぞと起き出す。
夜中に目が覚めた気がするが――よく覚えていなかった。
「うーん?」
母のエミリアも隣にいてすーすーと寝ている。
フォードは眠りが深いので、朝は頭が働かない。
「きゅぷー」
ルルも身体を震わせ、目をぱちりと開ける。
「……起きたー?」
「きゅい」
フォードと違い、ルルは朝も元気だ。
ふかふかのルルの頭を撫でるとフォードの目も覚めてくる。
「ルル、昨日何やってたんだっけ?」
「きゅーい」
ルルがベッドに潜り込み、もこもこと移動する。
ベッドの足元のほうからぽんと出たルルは、そのまま寝室の小テーブルに向かった。
ルルは身体は小さいが、運動性能はかなりのものだ。
陸の上だろうとアヒルに負けないパワーがある。
ぴょんと小テーブルに飛び上がったルルが赤クレヨンを羽で持つ。
なぜかルルの羽はモノを持てるのだが……。
「きゅっきゅい」
これで夜中、お絵描きしたよ――そんなルルのアピールが聞こえてくる。
「あっ……!」
「きゅい?」
ルルのお腹にべったりとクレヨンの色がついて、虹色になっている。
昨夜、ルルがクレヨンを下敷きにして寝落ちたからだった。
「ルル、お腹……大変なことに」
「きゅ? きゅい、きゅー!」
ルルはようやく自分のお腹に気づいたらしい。
とりあえずルルは自分のお腹を羽でごしごしごし……。
まだら模様がさらに広がった。
ふっかふかのルルぼでーはクレヨンの色素を吸収してしまうのだ。
「あー……」
「きゅー……」
綺麗好きのルルは自分のお腹を再度ごしごししてみる。
だが、やはり羽でクレヨンの汚れは取れなかった。
否、羽先にもクレヨンの色がうっすらとついて……。
「……きゅー」
ルルが厳しい顔を羽先に向ける。
汚れが許せないのだが、どうしようもない。
頭をポリポリとかいたフォードは隣にいるエミリアをさすってみた。
「んんー……」
「お母さん、朝だよー」
「カニもっとー……それは私の分だよ、ルル……」
「ルルはお母さんの分まで食べないよー?」
「きゅっ!」
ルルがお腹をぽんと叩く。
量を食べるように見えて、ルルは小食である。
20センチの身体に入らないのだ……。
もっと大きくなったら、もっともっと食べる所存であるが。
「うーん、あぅ……おはよ……」
「おはよう、お母さん」
「きゅー」
エミリアが目を擦り、むくりと身体を起こす。
昨日の緊張と疲れからか身体がだるい。
ゆっくりと目の焦点を合わせていく。
隣にもう起きたフォードがいて、テーブルにはまるめの……ペンギン、ルルがいた。
「……ん?」
まだ夢の中かと思ったけれど、ルルのお腹がレインボーになっている。
「んん? あれ、ルルのお腹が……」
「うん、クレヨンまみれで」
「……! ということはっ!」
エミリアの頭がフルスロットルで回転し、ばっと布団をめくり上げる。
幸い、布団にクレヨンはついていなかった。
「セーフ! はぁー……良かった」
買ってまだ3週間でクレヨンまみれは悲しすぎる。
洗濯するにしても布団はひと苦労だ。
「ねぇ、ルルが綺麗にしてほしいって」
「あ、そうね……もちろん。ご飯の前に綺麗にしちゃう?」
「うん! ルルのほうが先!」
ということでリビングの水槽までルルを抱えて運び、洗うことにする。
水槽に水と洗剤をちょっと入れて、最後にルルも入れて――もこもこもこ。
ルルは精霊なので丸洗い可能である。
エミリアはルルのお腹周りを泡立ててクレヨンを落としていく。
水性クレヨンで良かった……と思いながら、エミリアはルルを洗う。
「きゅーきゅー♪」
「ふふっ、気持ちいい?」
「きゅっ!」
エミリアもルルと泡の手触り、水の心地良さに楽しくなってくる。
そこにフォードがひょいっと身を乗り出してきた。
「ねぇ、僕もルルを洗いたい!」
「いいわよ。交代しましょうか」
「うん! ルル、綺麗になろうねー?」
フォードがやりたい、と言ったことはできる限りやらせたいエミリアである。
それが洗濯の類なら断るはずもない。
エミリアが横にずれて、フォードが代わりにルルを洗っていく。
「どうー? 大丈夫ー?」
「きゅきゅー!」
ルルもおとなしくフォードに洗われる。
そういえば……エミリアはふと思った。
自分の身体は別として、フォードが洗い物をするのって初めてかも。
まぁ、4歳児に家事をやらせるわけもないのだが……。
(……これもルルのおかげってことよね)
フォード人生初の洗い物は、精霊ペンギンのルルであった。
きゅー♪ (*´꒳`* っ )つ三
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