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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-1 沈没船ブラックパール号

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70.帰宅

「この文字列だけじゃ終わらないってこと?」

「母の意図がどこにあるのか、ルーンの解読が次も必要な可能性はある……」


 そもそも、なぜ暗号文などを残したのか。

 そこからして謎ではあった。


「あの暗号文を残さなくちゃいけない、そうした事情に心当たりは?」

「……ない。俺の母のマルテはルーン魔術師で海軍士官だったが、それ以上ではなかったはず」


 しかしロダンの沈む声からすると、確固たる自信はないようだった。


 自分の親が何をしていたのか?

 実際、それを知るのは簡単なことではない。


 15年前に亡くなられたのなら。

 伯爵家として、扱いが正室じゃなかったのならば。

 なおさら知るのは困難だろう。


 エミリアはふと、ロダンの父はどうだったかと思い出した。


 彼の父は健在のはずだ。

 何か知っているなら、ロダンからも聞けるのではないか。


 ……あまりロダンが親とうまくいってなくても。 

 エミリアは探るように尋ねる。


「お父様はご存知でないの?」

「父は俺と連絡を取りたがらない。イセルナーレの西で隠居生活に(いそ)しんでいる」

 

 ロダンが吐き捨てる。

 それは、はっきりとした拒絶の言葉だった。

 

「俺が爵位を継承してから、父はすぐ王都を出ていった。それからたまに手紙は来るが、それだけだ。もう1年以上会っていない」

「……ごめんなさい」

「いや……」


 ロダンが足を止めて首を振った。

 過去と感情を振り払うように。


「どうも今日の俺はおかしい。君が謝ることなど何もない……気を遣わせてばかりで、悪いのは俺だ」

「……当然だと思うわ。お母様のことなんだから」


 ロダン自身は気づいているのだろうか。

 父よりも母のほうにずっと思い入れがあることを。


 あるいは伯爵家ではない、母だから……?

 家族関係は結局のところ他人がどうこう言えるものではない。

 寄り添う以外にないのだ。


「君には助けられてばかりだな」

「そう? この国に来てから、私のほうがお世話になりっぱなしなような……」

「そうか……?」


 離婚調停とルーンの件を比べると、離婚調停のほうが遥かに重い気がする。

 あれはふたつの国を巻き込んでしまったのだから。


「だから、私のほうは気にしないで。ロダンのことなら、いくらでも付き合うから」

「……ありがとう。頼りにさせてもらう」


 ロダンがふっと顔を緩める。

 今夜、一番の微笑みだった。


 エミリアにとっては馴染み深い、彼の顔。

 謎は残ってしまったが、彼の助けにはなったのだろうか。


「家まで送ろう」

「うん、ありがと」


 街灯の灯りがふたりを照らす。

 ……ロダンのことについて、エミリアはまた少しわかった気がした。





 家に戻ったエミリアは軽く化粧を落とし、そーっと寝室へと向かう。

 が、寝室の扉を開けてエミリアは驚いてしまった。


「んんっ……」


 小さな室内灯の下、フォードが寝室の小テーブルにもたれかかって寝ていたのだ。

 フォードがベッドから抜け出すなんて、めったにないことだった。


 フォードの顔のすぐそばにはルルがいて、頭をくっつけて寝ている。


「きゅいー……」


 テーブルの上には他に画用紙とクレヨンがあった。

 4歳児らしい、赤色の図形がいくつも……カニだろうか。エビかもしれない。

 

 寝ぼけてベッドから出て、お絵描きをして――また寝たのだろうか。

 とりあえずベッドへ移動させないと。


 そう思い、エミリアは息子を抱える。

 正直、もうかなり重い……まだ持てるが、あと少しで限界だろう。


「んん? お母さん……?」

「ただいま」


 寝ぼけ眼のフォードを刺激しないよう、エミリアはそっと答える。


「お仕事、終わったの……?」

「うん」

「お疲れさまぁ……」


 フォードの声はぽやぽやで、半分寝ていた。

 ベッドに寝かせれば、すぐ寝入りそうなほどだ。


「ルルとね、お絵描きしてたの……」

「……楽しかった?」

「うん。お母さんには、お仕事があるもんね……」


 ルルを見ると、お腹の下にクレヨンが隠れている。

 ルルはルルでフォードと遊んでくれていたのだ。


 自分はいくつもの存在に囲まれている。

 それを噛みしめながら、エミリアはフォードをベッドに寝かせた。


「お母さん、頑張ってね」

「……ええ」


 良き親であり続けたい、エミリアはいつもそう思っている。

 そう思わせてくれるのは、フォードだ。


 エミリアが今度はルルを抱え、フォードのそばに寝かせた。


「きゅうー……」

「んふふー、ルル……」


 フォードがルルに頭をすり寄せ――すぐに眠り落ちる。

 その隣にエミリアも入っていく。


「おやすみなさい……」


 ふたりの体温を感じながら、エミリアも目を閉じたのだった。

これにて第2部第1章終了です!

お読みいただき、ありがとうございました!!


もしここまでで「面白かった!」と思ってくれた方は、どうかポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて頂けないでしょうか……!


皆様の応援は今後の更新の励みになります!!!


何卒、よろしくお願いいたします!

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子守りも出来る精霊ペンギン。 有能(笑)。
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