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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-1 沈没船ブラックパール号

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65.ロダンの考え

 さしあたり、このルーンのことは秘密にするしかない。


(契約上は……問題はないはず)


 消去するルーンについて、その順番や手順は問われない。

 消さない、とは言っていない。その前に相談する人間がいるだけだ。


 ……イヴァンには悪いと思う。

 でも、これがロダンの母のメッセージなら――優先順位は明白だった。


 エミリアは他の部分の記録を進め、時間を使う。

 

 作業後、エミリアはセリスにもこの件を言い含めておいた。


「このルーン、ちょっと厄介かもね。調べて、どうするか考えるわ」

「わかりました。他のルーンと違うっぽいですものね」

「他の部分の作業から進めましょう」

「はい! そうしますっ」


 ということでその日の作業は解散になった。

 2日後の午前、ロダンと会談がある。

 ……彼はどんな反応を示すだろうか。



 


 翌々日。

 フォードをセリスに任せ、朝からエミリアはロダンの屋敷へと向かった。

 さすがにもう慣れたものである。


 照りつけるような太陽。貴族街では薄着の人はいない。

 エミリアもそこそこ着飾っている。


(うーん、ああいうのは暑そう……というか、暑い)

 

 貴族街で薄着が少ないのには理由がある。

 携帯式の冷風機や冷気を生むルーンが存在するからだ。


 日常生活ではガスや水道、照明にルーンが使われている。

 これらは外部から魔力を供給する仕組みが存在し、魔力のない人でも扱えるようになっていた。


 ただ、いくつかのルーンはまだ魔力のない人々の手には遠い。

 そのひとつが冷気のルーンだ。


 家庭用のルーン式冷蔵庫はまだ高価で、世界的な普及率は低い。

 エミリアの家にも小さい冷蔵庫はあるのだが……イセルナーレは例外のはずだ。


 携帯用の冷風機となると庶民には手が届かない。

 しかし暑い。少し挫けそうになる。


(私も買おうかな……でも高かったりして)


 そんなことを考えながら、ロダンの屋敷に到着する。

 通されたのは応接間だった。


 高級感はあるが、装飾品は少ない。

 彼の性格がよく出ている。


 ロダンの様子はいつもと変わりない。

 美貌にも声音も……ぱっと見は。


「ようこそ。お疲れ様」

「こちらこそ。変わりなかった?」

「大丈夫だ」


 ソファーに座って向き合い、ロダンの報告を聞く。

 

「ウォリス王国のほうから苦情などは特に来ていないな」

「良かった……」

「財産分与もオルドン公爵家は認める方針のようだ。詳細は外務省が詰めることになる」


 これでまぁ、一安心なのかな……?

 あの義父母がおとなしく受け入れるとは驚きだったけれど。


「額としては恐らく数千万ナーレにはなるだろう。受け渡しも色々と考慮する必要がある」

「……そうね。急がないのでトラブルがなさそうな方向で進めてもらえれば」


 財産が分与されても現金でないと困る。

 現金でも数千万ナーレを手渡しで受け取りたくはない。


 他にもウォリス貴族などの話を聞くが、エミリアはどことなく落ち着かなかった。

 遠い故郷の話は右から左に通り抜けていく。


 あのルーンのことがどうしても心に引っかかるのだ。


「……他にも進展があれば、随時知らせる」

「ありがとう。いつも助かる」

「気にするな。最後まで付き合う」


 話が一段落して、やっと切り出せるタイミングが訪れた。


「ロダン、今回の件とは無関係なんだけど、ちょっと相談したいことがあって……」

「ふむ、どんなことだ?」

「例の解体作業で」


 ロダンの銀のまつ毛が揺れた。ほんのわずかに感情が動いている。


「続きを」

「あのロダンも見た船の残骸、そこに妙なルーンがあったの。船に刻まれたルーンとは別の系統で、効果のないルーンよ」

「……落書きか記念でそうする人間はたまにいる」

 

 ルーンは効果のない物も刻める。

 これを利用して単に魔力を込めたメッセージや落書きも可能だ。


「そうね、普通なら気にしないかも……でも、このルーンは特別なの」


 エミリアは思わず言葉を切った。


 迷うな。思ったことを言うしかないのだ。

 一呼吸置いてからエミリアは続ける。


「ルーンの魔力はロダンに似ているわ。筆跡、というのかしら。ルーンの癖もあなたと同じもののように感じる」


 言って、沈黙が流れる。

 エミリアの発言の意味を咀嚼したロダンが口を開く。


「……それはつまり、俺の母が刻んだルーンということか?」

「ロダンのお母様がルーン魔術に熟練していたなら」


 ロダンの深い青の瞳に困惑が浮かぶ。


「そうだ、俺のルーン魔術の基礎は母から学んだ。俺と母のルーンを見たら、似ていると感じるだろう。君ならばなおさらだ」

「確かなことはわからないわ。ただ、今はその可能性があるだけ。ルーンは残っているけど、意味があるようには読み取れなかった」

「それは間違いなく、あの残骸にあったんだな?」

「ええ……」


 エミリアが頷くとロダンは少しの間、顎に手を当てて思案を巡らせた。

 

「見に行くしかないか」

「ブラックパール船舶に連絡して、よね。それが一番よ」


 そこでロダンがふっと頬を緩める。

 この顔は面白いことを思いついた顔だ。


 ちょっとだけ嫌な予感がする。


「邪魔をされたくない。深夜、忍び込む」

「……はい?」

「もちろん、君にも同席してもらう」

「えっ……えっー!?」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


おもしろい、続きが読みたいと思って下さった方は、

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― 新着の感想 ―
相手がウォリスだから油断は出来ないと言うか。 貴族女性の結婚関連について一生その家の当主が決めていいものとかの貴族の価値観とかありそうなので、離婚して獲得したお金はオルドン公爵家の両親が用意した傍系…
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