表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
2-1 沈没船ブラックパール号

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/308

63.セリスの解体

 中腰で屈みながらエミリアは背後へと振り向く。


「恐れ入ります。では、次はセリスのほうから……」


 イヴァンの賛辞を受けて、エミリアは内心ほっとする。

 最初の一歩からつまづくようなことは避けられたわけだ。


「精一杯、やらせて頂きます!」


 セリスが意気込んで屈み、残骸へと手を伸ばす。

 そのまま彼女は集中して残骸を探っていく。


 残されたルーンの光は小さく、よくよく気をつけないといけない。

 だが、セリスも精霊魔術師として充分な才能と経験がある。


 横から助け舟を出したい誘惑にかられるが、まだ早い。

 

 数十秒後、セリスの手がフジツボの途切れた部分で止まる。

 そこはまさにルーンの刻まれた場所だ。


 船体がひしゃげているせいで、ふたつのルーンが絡まっている。

 今、エミリアが消したルーンよりも難易度が高い。


(だ、大丈夫だよね……?)


 セリスはその絡んだルーンを消去するように決めたようだ。

 段々と息が静かに、気配がおぼろになっていく。


 精霊魔術の応用による、ルーン消去。

 

 鮮烈なセリスの赤髪が潮風になびく。

 エミリアも邪魔をしないよう、息をひそめる。


 すっ……とセリスの指先が動く。


 どこを起点にするか迷っているようだ。

 ふたつのルーンが混じった場合、どこから魔力を注ぐか――これが重要になる。


 でもセリスの魔力は乱れていない。

 さざ波ひとつない水面のように落ち着いている。


(……落ち着かなきゃいけないのは、私だ)


 エミリアが焦ればセリスに伝わる。

 そっと目を閉じて、エミリアも気配を虚ろにしていく。


 何かをする必要はない。

 邪魔をしなければいいだけだ。


 どれほどセリスは集中して、空と海に自我を溶かしただろうか。

 十数分ほど経って、セリスの指と魔力が跳ねる。


 ちりっ……と絡んだルーンが光の粉になって、消えた。

 

 安心しながらも顔に出してはいけない。

 これくらいはできて当然ですよ、という表情をエミリアは浮かべた。


 作業していた位置から、セリスが少し横にそれて声をかける。


「どうでしょうか、イヴァンさん。ご確認ください」

「拝見いたします」


 イヴァンが屈み、細身の腕を作業箇所へと伸ばす。

 目を閉じて集中している。


 じっくりと確かめているようだ。

 緊張――大丈夫なはずではあるが。


 数十秒の間、イヴァンは指を這わせて確認を行った。

 やがて彼がぱちりと目を開ける。


「ええ、申し分ありません。丁寧かつ完璧なお仕事でございます」


(はぁ……よかった!)


 エミリアはセリスと視線を交わす。

 彼女も迂闊な笑みは出さないようにしているが……喜んでいた。


 イヴァンが優雅に立ち上がり、ふたりに向き直る。


「実際に目の前で実演頂き、ありがとうございました。お邪魔でしたでしょうが……」

「いいえ、とんでもございません。当然のことです」

「そう仰ってもらえれば気が楽になります。では、私はお先に失礼いたします。作業について、何かあれば現場の社員にまでお申し付けください」


 こうしてイヴァンは去っていき、エミリアとセリスが残された。

 

 ブラックパール船舶の現場の社員は4人ほど。

 遠巻きに見守るスタイルのようで、残骸から20メートルは離れていた。


 ふたりきりになって、セリスがようやく肩の力を抜く。


「はぁ~、良かったです……。どこか、おかしくありませんでした?」

「大丈夫よ。しっかり出来ていたわ」


 実際、セリスのルーン消去はかなりの水準だった。

 絡んでしかも変形したルーンを消すのは難しい。


「……でもエミリアさんなら、もっと速くできますよね」

「まぁ……慣れれば速くなると思うわよ」


 エミリアもこの数週間、工房での作業で速度アップしたところはある。


 イセルナーレのルーンがなんとなくであるが……掴めてきた。

 消すためというのがアレかもしれないが。


 セリスも伸びしろは大きい。心配はしていない。


「じゃあ、作業に取り掛かりましょうか。とりあえず2時間くらいね」

「はい! 頑張りますね……!」


 作業工程はまず、残骸の総点検から。

 全体に刻まれたルーンを洗い出し、メモしていく。

 

 その後、それらを分担して消しながら相互に点検……と。

 定形外の形とサイズだけに、この方法でないと漏れが出る。


(あとでひっくり返してもらわないとね……)


 残骸の上、それに下の面は作業が難しい。

 横面の作業が終わったら転がしてもらうことになるだろう。


 そして数十分……ふたりはとりあえず横の面の確認をしていく。

 調べていくとかなりのルーンが点在しているのがわかる。


(この残骸ひとつで数日はかかるかな……)


 頭の中で作業工数を考える。

 これが10個以上もあるというのだから、大変だ。


 エミリアが記録ノートに書いていると、セリスが肩をちょんちょんとしてきた。

 セリスは戸惑い、真剣な表情をしている。


「あの……ちょっといいですか? 変なルーンが刻んでありまして……」

【お願い】

お読みいただき、ありがとうございます!!


「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、

『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!


皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!

何卒、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ