60.白身魚
食事が終わり、工房に戻るとエミリアは解体作業を一緒にする相棒の件を詰めた。
もちろん相棒はセリスである。
常に二人一緒でいる必要はないが、作業は分担して報酬も分ける。
それでも充分な金額ではあったが。
進捗ごとにグロッサムとブラックパール船舶が確認し、検収する。
この案件には違和感はある。何かが妙なのかもしれない。
だが、受けないという選択肢はエミリアにはなかった。
話し合いを終え、途中でフォードを引き取りながら買い物をしていく。
寄ったのは食料雑貨店である。
(ふむむ……)
解体作業のことは、それとして。
昼に食べた白身魚の東洋風油焼きはとても良かった。
……色々な味を知ってもらうのも教育かなとエミリアは考える。
料理は文化であり、広い世界を知る近道だ。
(前世の給食では色んなメニューがあったしね。ご飯に味噌汁だけでなく、パン、カレー、ピザ……)
今になって思うとアレも教育なのだ。
(おっ、これは……!!)
『東方料理にどうぞ! 本格的黒豆ソース!』
調味料の棚に東方の黒豆ソース。
小瓶で入っている。黒い、確かに。
これは醤油ではないか?
……醤油のはずだ。
すすっと小瓶1本を買ってみる。
そして帰宅し、リビングで書類を読んでいると、ルルを抱えたフォードがそばに寄ってきた。
「お母さん、今日は何してきたの?」
「お船を捨てる仕事のことでね」
「きゅー」
たっぷんたっぷん。
ルルはまたも上下に揺れている。
今のところルルは縦にも横にも伸びてはいない。
「お船ってあのー、海の大きな船? 捨てられるの?」
「うーん、大変だけどね。そう、まずは切り分けて……」
好奇心はいいことだ。
息子の疑問には答えていきたい。
新聞紙を持ってきてゴミ箱に入れようとする。
ゴミ箱の口より大きなサイズ、なので当然入らない。
「このままだと入らないでしょう?」
「ふんふん……そうだね」
「だから、切って捨てるの」
ハサミを取り出したエミリアが新聞紙をちょきちょきと切る。
バラバラになった紙は容易に捨てられるようになった。
「なるほどー。本当だ!」
「きゅい!」
どうやらフォードは納得してくれたようだ。
ふぅ……母親としてほっとする。
そうこうしているうちに、夕方になった。
買ってきた黒豆ソースを小皿に出してみる。
色は黒、匂いは……大豆と塩っぽい。
見た目は完全に醤油なのだが……。
エミリアはそっと豆ソースをテイスティングしてみる。
「……ううむ」
エミリアの記憶にあるより、塩分とまろやかさと旨味とコクに欠ける。
つまり全部だ。なんだか全部が足りない。
醤油、醤油かなぁ……?
思わず腕を組んで考えてしまうレベルで醤油ではない。
これは黒豆ソースだ。
「はぁ、仕方ないわね……」
エミリアは心を鬼にして黒豆ソースにバターとチーズを溶かし、特製ソースを作ってオリーブ油で白身魚を焼く。
味が足りないなら何でも入れて足せばいい。
日本料理の職人が聞いたら怒りそうだが。
それにアンチョビ、小エビを加えたサラダ。
あとは味の濃いめの黒パンが本日の夕食だった。
少し冷ました白身魚の特製ソース焼きは……フォードがまず一口。
「んんっ! おいしいっ!」
「きゅーい!」
「ほら、ルルも食べてみて!」
「きゅい、きゅー!!」
ほっとエミリアは胸の中で一安心する。
どうやらこの料理はフォードのお眼鏡にかなったようだ。
もぐもぐと白身魚とソースを一緒に口へと運んでいる。
そこへ息子から無邪気な一言が飛び出してきた。
「お魚とチーズが凄いね!」
「きゅーい!」
……やっぱり。
黒豆ソースは印象から消えてしまったか。
あえて消したのではあるけれど。
「ふふっ、フォードとルルが喜んでくれて何よりよ」
笑顔を浮かべ、エミリアは心中でため息をつく。
やっぱり東方料理は一筋縄ではいかないなぁ……。
これもまた学びだ。
その日、エミリアはフォードの髪を撫で、ルルのお腹をぽよぽよしながら眠りについたのであった。
買ってきた調味料がなんだか微妙だなぁと思ったことはありませんか?
バター・チーズでかなりの程度まで解決できます。これは実体験です。
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