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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
1-5 心機一転

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48/308

48.帰宅

 雲があっても市街地は焼けつくように暑い。

 とはいえ、歩かなければ。馬車は安くない。


 こうしてエミリアは自分が泊まっていたホテルにまで、セリスを送り届けた。


 ホテル前、セリスはエミリアの手を握り、何度も礼をする。


「本当に、本当にありがとうございます……! この御恩は絶対に忘れませんので」

「いいのよ。それよりも大変なのはこれからだと思うから……。内側に抱えこむこともあるでしょうけど、無理はしないでね」

「しっかりと胸に刻みます」


 手を離したセリスがエミリアたちに向き直る。


「では、精霊の加護があらんことを」


 ……それはウォリスで使われる別れの文句だった。

 癖で出たのだろうが、エミリアは一瞬フリーズしてしまう。


「あっ、えーと……」


 ウォリスの文句を使うことの気まずさ。

 それにセリスも気づいた。


 時間にすればほんの数秒。

 エミリアより先に口を開いたのはフォードだった。


「海の恵みがあらんことを……だっけ」

「そう! そうでした!」


 珍しい、フォードが人の発言にツッコむなんて。

 何事にも控えめなフォードにしては……セリスは違うのだろうか。


 セリスの放っておけなさ、というのはある。

 フォードもエミリアと同じようにセリスを見ているのかも。


 ふーっと息を吐いたセリスがフォードの前に屈む。


「フォード君、よく知っていましたね。とってもお利口(りこう)さんです」

「……うん、セリスお姉ちゃんも頑張ってね?」


 ルルが袋の中からぐっと羽を伸ばす。


「きゅ、きゅー」

「ルルちゃん……」


 セリスが指の先でルルの羽にタッチする。

 ほんのわずか、セリスの瞳に涙が浮かんだ気がした。

 

 



 セリスと別れたエミリアたちはアパートへ歩いていく。

 途中、細々とした品物や惣菜を買いながら。


 分厚い雲はすっかり海の沖に流され、今は太陽が照りつけていた。

 もうそろそろ8月になる。

 

 暑いのは好きではなかったが、イセルナーレは風のおかげでそこまで蒸さない。


 記憶にある日本の夏よりかは過ごしやすくなる気がする。 

 多分、コンクリートや車の排気ガスがないことも影響しているのだろう。


 家の扉を開け、エミリアが力を抜く。


「ふぅ……ただいまー」

「たっだいまー」


 フォードが玄関にルル入りバッグをそっと置いた。


「きゅーきゅー!」

「んふふ、ルルもお疲れ様!」


 ルルがふににっとバッグから出て、玄関で跳ねる。

 ……可愛いやつめ。


 時刻は夕方前、とりあえず化粧を落として部屋着に着替える。

 今日は本当に色々とあった。


 詳しい話は……フローラにも共有できないところがある。

 彼女が知るべきでない事柄も多い。知ってしまえば、黙っていなければいけない。

 エミリアが行った離婚調停はそうした(たぐい)のものだからだ。


 でもとりあえず、終わった。

 エミリアの名誉は守られ、財産分与も行われる見込みだ。

 後始末はまだ残っているが、すっきりとした気分である。


(ひとりだったら、絶対にダメだったかも)


 フォードがいたからエミリアは頑張れた。

 ロダンがいたから迷いなく進めた。


 ……フローラもグロッサムも。

 エミリアはこの国に来てから、本当に恵まれたと思う。


 エミリアとフォードとルル。

 ソファーに並んで座っていると、フォードがエミリアの手を取った。


「ねぇ、お母さんの手……気づいてる?」

「うん? 何か変わった?」

「ふよふよしてる。冷たくもないよ」


 小さなフォードの指がエミリアの手の甲をなぞる。


 血色、指の付け根、全体の肉づき……。

 まじまじと見ると全体の印象がかなり変わっていた。


(体重も多分、増えてるよね……)


 この世界にはまだ家庭用体重計がない。

 なので正確にはわからないが、数キロは増えた気がする。


 もちろん、今までが痩せすぎていただけなのだ。

 あの家でたくさん食べる、というのは不可能な話だった。


「ありがとう。ここに来て、色々とおいしい物を食べてるからね」

「うん! もっともーっと食べないとね!」

「フォードもこれから大きくなるもんね」

「えへへ……」


 エミリアはフォードの頭を撫でる。

 そうだ、息子はこれからどんどん大きくなる。


「きゅーい!」


 ルルも羽をばたつかせ、もっと食べるよ的なニュアンスを醸し出している。


「……うん」

「きゅ?」


 エミリアはすすっとルルを掲げ、テーブルの上に置いた。

 そしてさきほど、雑貨店で買ってきた新品メジャーを取り出す。


「あれ、お母さん……?」

「ちょっとね」


 エミリアはメジャーでルルの全長と横幅を測り、メモ帳に記録した。

 

 ルルの高さ――24セルティ。メートル法に換算すると19センチ。

 横幅――25セルティ。メートル法に換算すると20センチ。


 ふむ……今日はルルもたくさん食べたけれど、どう変化するのか。


 精霊は成長しないと言われているが、そもそも同居するものではない。

 実際、縦と横が大きくならない保証はないのだ。


 ……ちゃんと記録をつけないと。

 でないと、()()()()()()()()かもしれない。


「きゅーい?」

「大丈夫よ。気にしないでね」


 ルルが合法ペンギンのままでいられるかどうか――それはエミリアにかかっているのだ。

次回よりお仕事パートへ移ります。


*家庭用体重計が日本で発売されたのは戦後のことで、比較的最近のことになります。


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― 新着の感想 ―
え…… ペンギンの形をしたボール?
縦より横幅の方が大きい!?さすがに丸すぎるぞルル!横幅は羽を広げたサイズだと言ってくれルル!
まるい、すっげーまるいぞルル! これから毎日散歩でスリムにならないと!
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