40.合法的精霊
首脳会議は小一時間で終わり、エミリアはロダンと一緒に法務省を後にした。
本番は3日後、その日にオルドン公爵がイセルナーレ王都を訪れる。
ここが決戦の場だ。何をするかはもう決まっている。
その日までにシャレス外務大臣はウォリスに飛び、戻ってくる予定だ。
オルドン公爵もウォリス宮廷に人脈は持っているだろうが、これでは情報共有は間に合わない。
……イセルナーレのことだから、封鎖の手も打つだろうけれど。
完全に逃げ道を封じ、オルドン公爵へ制裁を加えるのだ。
(密度の濃い会議だったわ……)
宮殿の停留所からロダンの所有する馬車に乗ると、疲れがどっとやってきた。
問題はないと思う……前世の知識と思考があって本当に良かった。
何も知らない21歳だったら、ハードすぎる。
向かいに座るロダンの表情はいつもと変わらない。
こうしたタフな現場を何度も経験しているのだろう。
「お疲れ、エミリア」
「ロダンこそ……はぁ、本当にありがとう」
「これで事前準備は整った。あとは当日だ」
「うん……」
ロダンの前だからか、疲れた声を隠せない。
早くフォードを引き取って家に帰りたかった。
でも、その前に――今回のこととは無関係だが、聞いておきたいことがある。
「ところでイセルナーレで精霊と一緒に暮らすのって、合法だったかしら……」
「……なに?」
ロダンが眉も動かさずに問い返してくる。
イセルナーレの長い長い法文集に、該当するところを見つけられなかったのだ。
エミリアはルルについて、ロダンの見解を聞いておきたかった。
「精霊と一緒に暮らしたいのか?」
「精霊魔術は私からフォードに教えるつもりなの。寄ってきてしまうこともあるでしょう」
これは嘘ではない。
精霊魔術の適性がどうあれ、基礎は教えるつもりだ。
もうエミリアの家にはルルがいるが……。
きゅいきゅいしているが……。
「ふむ……イセルナーレの法では、全長60セルティ以下の精霊は精霊として扱わず、取り締まりの対象ではない」
60セルティ――エミリアは頭の中で素早く計算する。
1セルティは8ミリちょっとだったはず。
ということは60セルティは50センチだ。
(取り締まりは全長50センチから……! ルルの身長はその半分以下ねっ!!)
疲れた目がぱちりと開く。
セーフ、完全にセーフだった。
「精霊の力の強さは全長に比例する。60セルティ以下の精霊は、どのみち野良猫や野犬程度の危険性しかない」
「まぁ、そうね……」
「精霊避けの結界もこれを基準に展開されている。実際には、もう少し厳しいがな」
ふむ、言われてみればそうか。
50センチの野良猫が入らないよう、都市に網を張るのも大変だ。
「それと60セルティ以下の小さな精霊は存在自体がレアではある。俺も人生で1回しか見たことがない」
「……え、どこ?」
「ウォリスでの留学時代、猿の精霊を隠して愛でていた奴がいただろう。あの小猿が教師の頭に乗ってカツラを外して……」
「ぶふっ、あったわね……!」
もちろん、その猿の精霊を隠していた学生は大目玉を喰らった。
今、思い出してみると傑作ではある。
カツラをバラされた教師には悪いけれど……。
「あの小猿はどうなったんだ?」
「えーと、こっそり実家にまで連れ帰ったそうよ」
「ふむ……実害はその程度だからな。仮にフォード君の精霊魔術で呼び寄せてしまったとしても、問題はない。まぁ、対処に困ったら王都守護騎士団を呼んでくれていいが」
精霊は大きくなったりはしないはずだし……。
そんなことにはならない、はず。
きっと、多分……。
こうして市街地まで送り届けてもらったエミリア。
保育園からフォードを引き取り、自宅に戻る。
自宅ではルルが毛布の上で日向ぼっこをしていた。
「ふきゅいー」
羽でお腹の毛づくろいをしながら、寝転がっている。
優雅な生活を楽しんでいるようだ。
そんなルルを見かけるや、フォードが駆け寄る。
「ルルー!」
「きゅいー!」
ぎゅっとフォードがルルを抱っこする。
それを受けて、ルルがふにふにと羽でフォードを撫でる。
エミリアもそれに混ざり、ふたりを抱きしめる。
フォードの髪もルルの羽もとても柔らかい。
ずっと触っていたくなる。
……今日は本当にくたびれた。
でもフォードとルルのおかげで頑張れる。
決着がつくまで、あともう少し。
道筋はもう見えた。あとは、見届けるだけなのだ。
ごろごろ…… (・Θ・ っ )つ三
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