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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
1-4 エミリアという母

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38.首脳会議

 法務省の事務方が会議室を回り、書類を配る。

 金の修飾入りの公的文書だ。


 内容は今回の件の要約だった。


(……うっ)


 エミリアとオルドン公爵の婚約から離婚を切り出されるまで。

 『1-1 セリド公爵家とオルドン公爵の婚約』などなど……。

 

 何年の何月に何が起こったか、すべてが列挙されている。

 報われない結婚を突きつけられている気分だ。


(でも、我慢しなくちゃ……!)


 書類が配られたのを確認したシャレスが口元に手を当てる。


「エミリア殿の心労を考慮し、各項目の読み上げは省略する。項目番号ごとに相違がないか、申し訳ないが確認して頂きたい」

「は、はい……!」

「では、1-1から。この項目に相違はないですかな」


 エミリアはほっとする。

 このやり方なら、精神の消耗はずっと少ない。


 それにエミリアの隣にはロダンがいた。

 エミリアは座って彼は立っている。だが、そばにいてくれていた。


 項目の確認は機械的に進む――否、そうなるようにしてくれたのだ。

 その功労者はロダンだとエミリアは理解していた。

 

 エミリアの能力ではイセルナーレに通用するような公文書は作れない。

 彼なしではここまで来ることさえなかっただろう。


 特に付け足すこともないまま、確認は終盤まで来る。

 本当に早い……。


「……では、ここまでで相違はありますかな」

「いいえ、相違ありません」


 最後に離婚を切り出され、イセルナーレまで来た日のことを確認する。

 

(精霊ペンギンとロダンと出逢った日か……。なんだか遠い日に感じるわね)


 まだ、あれから1か月も経っていない。

 それなのにずいぶんと自分の環境と心情は変わっていた。


 とんとん拍子に確認が終わる。

 少し拍子抜けするほどあっけない。


 ブルースが書類を整え、エミリアを見つめた。


「さて、確認は終わりだ。すまなかったね」

「とんでもございません」

「……ここまでは意識のすり合わせだが、新しい議題もある。シャレス、報告を」


 ブルースとシャレス。

 ふたりの視線に晒されたエミリアが背筋を伸ばす。


「……デレンバーグ大公家はご存じかね?」


 シャレスに問われ、エミリアは意図が読めずに頷く。

 ウォリス三大公家の一角、王家にも近い最上位の貴族だ。


「オルドン公爵の再婚について、ロダンから聞いていたと思うが――デレンバーグ大公のご息女、セリス殿が再婚相手となったらしい」

「……彼女はずいぶんと若いのでは」

「16歳と7か月だ」


 セリスについて、エミリアはほとんど知らない。

 ただ、同じ国の貴族として少し顔を合わせた程度。


 確か、最後にあったのは結婚前だ。

 セリスは赤毛で魅力的な少女だったと思う。

 快活というよりは可憐、静かめの令嬢だった。

 

 大公家の女性なら結婚相手を選ぶことはできない。

 だとしても若い、若すぎる……。


 しかも相手が元夫なのを考えれば、ひどく気の毒だった。


「イセルナーレ出立の直前に向こうから通達があったため、把握が遅れてしまった。エミリア殿は、セリス殿をどの程度知っておられる?」

「社交の場で数回、顔を合わせた程度です。それも結婚前のことになります」

「ふむ、そうか……」


 エミリアの実家であるセリド公爵家は精霊の祭司を発端とする。

 そのため魔術師や学者が多い家系だ。


 対してデレンバーグ大公家は野心的な、上昇志向が強い武勇で鳴らした貴族。

 ここ数百年でセリド公爵家とデレンバーグ大公家で婚姻関係もない。


(にしても、デレンバーグ大公家から婚約者を迎え入れるなんて……。てっきり再婚相手は愛人の誰かだと思っていたけれど)


 オルドン公爵は初婚でもないのに、デレンバーグ大公家がよく認めたものだ。

 

 ……だからか。

 だから、エミリアとフォードを消し去りたかったわけだ。


 重なる思考に怒りが募るが、集中しないといけない。

 今、エミリアに必要なのは理性だ。


 シャレスが再び、口を開く。


「議題とはデレンバーグ大公家のセリス殿のことだ。計画の工程上、彼女の人生にも多大な影響が出る」

「……かと思います」

「エミリア殿、君の考えはいかに?」


 16歳のセリス・デレンバーグ……。


 彼女がどんな人間なのか、エミリアにはわからない。

 オルドン公爵との結婚を歓迎しているのか、どうかさえ。

 

 彼女のことを想えば、手心を進言すべきなのだろう。

 オルドン公爵への制裁を和らげ、セリスの面子も潰さない――それを決めることができる、最後の場が今なのだ。


(……でも、ごめんなさい)


 エミリアは心中でセリスに謝った。

 結論はとうの昔に出ている。


(私はもう、イセルナーレで生きるから)


 ウォリスの論理や事情には忖度(そんたく)しない。

 エミリアはエミリアの考えで生きていく。


「……歪みは正すべきだ。君は正しい」 

 

 ロダンがささやく。

 エミリアにだけ、聞こえる声で。


「ご用意されている計画に、変更の必要はないかと思います」

「それでよいのだな?」

「はい――でも、ひとつだけ」


 エミリアは思考を巡らせる。

 楽なことではない。正しいかもわからない。


 でも、もしも……セリスがそれを望むなら。

 エミリアに責任はないとしても、できることはある。


 エミリアがしたように、選び取ることは可能だ。


「もし結果としてセリス嬢がウォリスから逃亡したいと願うなら、その手伝いを私がすることは構いませんでしょうか」

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― 新着の感想 ―
良い友達になれるでしょうね。
逃亡というか亡命ですよね 害国と外国、どっちがマシかなという
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