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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
1-4 エミリアという母

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33.運び出し

 フォードが精霊ペンギンを撫でたまま、エミリアに聞く。


「そういえば、この子……何を食べるの?」

「うーん……」


 精霊が何を食べるのか。それは深くて答えのない質問だ。

 ウォリスの学会でさえ見解が割れている。


(精霊が生きているのかというのも諸説あるのよね……。スタンダードな学説だと精霊は神の無意識なる使い、ということになるけれど)


「きゅい?」


 精霊の身体は純粋な魔力の結晶だ。

 生き物のように感じられ、その行動は元になった動物に制約される。


 鳥の精霊は空を飛べ、魚の精霊は水を泳ぐ。

 

 しかし本当の意味で生物ではない。

 寿命と繁殖――生命にとって欠くべからざる要素を持ちえないからだ。


 だが、精霊は元になった動物を模倣する。

 食べ物も必要かどうかはわからないが、元の動物と同じものを食べるはずだ。


「多分、魚とかかな?」


 安易な発想を持ち出すエミリア。

 ペンギンだから……以外の理由はない。


 自分で言って、ちょっと不安になってきた。

 あとできちんと本を読んで調べよう。


「おさかなー、君もおさかな好きなんだね」

「きゅい!」


 精霊ペンギンが力強く頷く。


 ……そうなのかな?

 ちゃんと調べるけれど。


 この家には何もないので、とりあえずホテルに戻ることにする。

 いや、その前にこの精霊ペンギンを運ぶ手を考えなければ。


 アパートからホテルまでは徒歩10分ほど。

 魔力の濃いギルド地区をかすめているため、精霊の気配はとてもわかりづらい。


(……大きなバッグに入れて、フォードに運んでもらえばいいかな?)


 静かにしてくれれば、ぱっと見はぬいぐるみだろう。

 下手な工作をするより効果的に思える。


「この子を運ぶバッグを急いで買ってくるから、ちょっとだけお留守番しててくれる?」

「うん! いってらっしゃい!」


 部屋に施錠し、在住する警備員に挨拶してエミリアは飛び出していく。


(これ! このバッグならちょうどいいかな……!?)


 不審に思われない上限速度の小走りでバッグを買い、急いで戻る。

 その間、わずか10分。トイレに行って戻る程度の時間でエミリアは帰ってきた。


「はぁはぁ、ただいま……!」

「おかえりなさい! 早かったね!」


 フォードは精霊ペンギンの真正面に座り、両手で精霊ペンギンの顔をもみもみしていた。

 精霊ペンギンは気持ち良さそうに目を細めている。


「きゅーいー」

「ルルもおかえりなさい、だって」

「……その子の名前?」


 エミリアがふたりのそばに座り、そっとバッグを精霊ペンギンの横に並べる。


 買ってきたのは飾り気のない茶色で布製の買い物バッグだ。

 ズッキーニを入れるのにもちょうど良い。


 並べてみるとちょうど精霊ペンギンの目と鼻が外に出るほど。

 完璧な目測だった。


 エミリアの疑問にフォードが撫でるのを止めずに答える。


「そうだよ。お名前を聞いたら、教えてくれたんだ」

「きゅー」


 本当にその名前なのか、確かめる(すべ)はない。

 なぜならルルは「きゅい」としか言ってくれないからだ。


(まぁ、でもフォードとこの子が納得しているなら……いいってことにしよう)


 つぶらな瞳のルルは満足しているようだし。


 ということでエミリアはルルを抱え、バッグにすすっと収納する。


(ううん、ふわふわ……)


 ルルは一連の工程をおとなしく受け入れ、バッグに入っていった。


「わっ、ぴったり!」

「きゅい……!」


 ルルが決意を秘めた目で頷く。

 どうやらこれから運ばれるということを理解しているらしい。


 では、いざホテルへ――そこでフォードが勢いよく手を上げる。


「ルルは僕が運ぶよ!」

「……大丈夫?」

「うん、しっかり抱えていくから!」


 ルルの重さはさほどではない。

 なぜなら20センチほど、重さは2キロもない。


 4歳でも抱えるなら充分に運べる重さだった。


(フォードが運ぶほうが目立たないかな?)


 ぬいぐるみっぽいルルなら、フォードのほうがいいかも。

 エミリアが運ぶと人目を引きそうなのは確かだ。


(……にしても、ルルのことだと積極的ね)


 オルドン公爵家では動物などとの触れ合いはなかった。

 敷地やその近くには牛や鶏、馬もいたというのに……。


 エミリアも乗馬の申し子である。

 やはり動物と接することで学ぶことは少なくない。


 ここはフォードが発揮したやる気に乗っかろう。


「じゃあ、お願いね。疲れたら代わるわ」

「わかった、うんっ!」


 フォードがルル入りバッグを身体の前に抱える。

 どこからどう見ても、ペンギンのぬいぐるみを運ぶ子どもだった。


「……きゅ」

「んふふー、ちょっとだけ我慢してね?」

「きゅいっ」


 すでにルルとフォードの関係はいい効果が出ているのかも。

 これだけでもエミリアは嬉しかった。


 何事にも過剰に控えめなフォード。

 彼はもう少し、やはり子どもらしく主張するべきだとエミリアは思う。


 でもそれが難しいこともわかっていた。

 フォードの眠らざるを得なかった側面を、ルルは呼び起こしてくれるのだから。

きゅきゅーい (・Θ・ っ )つ三


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― 新着の感想 ―
3周目〜。 ルル、小っさ!? 実は私の手は17センチあります。手のひらが10センチ、中指が7センチ。モノを軽く測りたい時便利!たまに活用してます。
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