307.真意
「よ、よかったです……」
率直にほっとするエミリアにトリスターノが補足する。
「乗馬禁止の規定がないのは不思議でしょうね」
「そうですね、意外です」
「それは別の規定で馬に乗ることを禁じているからです。実は厩舎エリアは立ち入り禁止区域に指定されているのですよ」
なるほど。
それだと厩舎に近づくことが規則違反だ。
そうすると教職員が馬を連れ出した時しか乗る機会がないわけか……。
ややこしいが、教員のいない場では実質的に乗馬はできないということ。
そこでスレイプニルに乗って戻ってきたオーマがトリスターノの姿を認める。
「が、学部長!」
慌てたオーマは真っ青になって、トリスターノのもとに向かう。
トリスターノは手を軽く上げて、その動きを制した。
「急がなくて結構。乗馬は禁じられておりませんので」
「い、いえ……! めっそうも……」
恐縮しきりのオーマが鞍から降りようとした時、スレイプニルが鼻を鳴らして身体を揺らす。
「ぶるっ!」
「おわっ、まっ……!」
オーマはとっさにバランスを取り、身体をほとんど揺らさずに対処した。
やはりオーマの乗馬術は相当なレベルだ。
「……その子もまだ降りてほしくはないようですね。試験開始までには時間があります。もう一走りしてきて構いません」
「は、はぁ……本当によろしいのですか?」
「ええ、その子ものびのびと運動しなくてはね」
トリスターノに言われ、オーマはスレイプニルに乗ってまた駆け出していった。
なんというか、オーマに対して甘い気がする……。
規則で禁じられていないからと言って、ここまで認めるのは謎ではあった。
エミリアの疑問を感じ取ったトリスターノが口を開く。
「不思議ですか」
「少し……どのような理由なのか、お聞かせ頂いても?」
「なに、彼自身も自己評価が低いようなので」
それはエミリアも感じていた。
しかも自己評価だけではなく、学生からも舐められているっぽいのだから。
「彼は自らの出自や魔術師としての力量を気にしているのかもしれませんが、教育者としてオーマは非常に優秀です」
トリスターノが指折り数える。
「勤怠は極めて優秀、講義や試験の内容も非の打ちどころがない。動物たちからも好かれている。スレイプニルは言うほど、たやすく乗れる動物ではありませんからね」
トリスターノの評価を聞いて、エミリアは頷く。
スレイプニルはとにかく体格が良く、高い。うっかり落ちれば……それだけで大変だ。
「学生は現金です。教職員のぱっとわかる魔力や魔術、肩書をよく見ます……ですが実際のところ、そのようなものは教育者の価値には関係ありません」
「はっきりと言い切るのですね」
「学生にへいこらされることが、教育者の使命ではないですからね。学生を成長させること、学ばせること……」
そこでトリスターノがエミリアに首を向ける。
「あなたもそれがわかっている。だから最初の講義で決闘を仕組んだのでしょう」
「いえいえ、あれは……不可抗力で」
危ない。
トリスターノの言う通りではあるが、仕組んだのを認めるのはちょっとマズい。
ルルもきゅるんと知らない振りをしていた。
「まぁ、なんにしてもオーマはもっと自信を持って欲しかったのです。だからですよ」
「そうですね」
オーマは実に良い姿勢と顔でスレイプニルに乗る。
エミリアも馬には散々乗ってきたので、よくわかる。
スレイプニルはオーマが好きで、オーマもスレイプニルが好きだ。
朝の大地を駆ける馬は美しい。
エミリアはオーマの騎乗を眺めながら、感想をぽろっとこぼした。
「……もう少し速度を出しても……」
「駄目ですよ」
「えっ」
「危ないですからね」
真面目な顔で圧をかけられ。
エミリアはこくこくと頷いた。
「……はい」
( /•ө•)/ きゅい
ペンギンの歩行速度は絶対安全……!!
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