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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
4-2 ふたつの因縁

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305/308

305.騎乗

 エミリアは犬ちゃんをテーブルの上に乗せると、スレイプニルの背を撫でた。


 がっしりとして力強く、気力に満ちている。


(この子が感じていたのは――)


 動物学はイセルナーレで重視されるルーン魔術の系統ではない。


 むしろ精霊魔術の系統だ。


 しかも出自がある。

 先生とて、学生から舐められることがあるのだ。


 エミリアも最初来た時、ガネットやキャレシーに舐められていたし。


 魔力があるとそのような鼻っ柱が育ちやすい……。

 

(……だったら!)


 エミリアは意を決してスレイプニルに飛び乗った。


 驚いたのは会場の外に待機していた学生たちである。


「えええっ!? スレイプニルに乗ったぁっ!?」

「そ、そういうのアリだっけ……!?」

「ナシだろ! そーいう授業じゃないはず……!!」


 集まっていた学生は10人ほど。

 その全員が目を丸め、驚いていた。


 スレイプニルが威圧するように大股に歩き始める。


 ちょっと筋肉が固いかも。

 運動不足な気がする。


「もしかして試験が近いから、のびのびできなかった?」

「ぶるる……っ」


 スレイプニルがこくんと頷く。


 昨日の状況からすると……この子の好きなようにさせるのは勇気がいるかもしれない。


 でも今のスレイプニルは身体をぐーっと伸ばし、威厳をもって歩いている。


 周囲の学生はあんぐりとエミリアを見つめていた。


「す、すげー……」

「迫力あるな、おい」


 テーブルに当たってはいけないので、会場から少し離れるように……。


 そこでオーマがエミリアのスレイプニル騎乗に気がついた。


「ちょっ!? なにを……!」

「いえ、この子が運動不足のようで」


 しれっと言ってのけるエミリア。


 ルルも羽をぴこっと掲げる。


「きゅっ!」

「いやいや、そうだとしても――」

「ぶるんっ!!」


 スレイプニルが鼻息を鳴らし、オーマを睨んだ。


 昨日の今日でそんなことをされたら、オーマも言葉を飲み込まざるを得ない。


「……何がそんなに不満なんだ?」

「…………」


 スレイプニルはぷいっと顔を背ける。


「どうどう……」


 エミリアはスレイプニルの手綱を取り、お散歩を再開した。


(この子も素直じゃないなぁ)


 スレイプニルは誇り高い馬だ。


 立派な体格と高い知能、希少性……同胞の馬より速く長く走れることを自負している。


 主の選定においても、一般的にスレイプニルのハードルは高い。


 暴れ馬が多いということではないのだが、知能が高いがゆえにスレイプニル自身も色々と考えてしまうのだ。


 この大学内でスレイプニルに乗ることは、講義の中にないはず。

 それは学生には難しすぎるから。


 答案用紙をちらっと見た限り、問われるのはスレイプニルの生態だけ。


(……鬱屈もしちゃうわけよね)


 あとは……実技でスレイプニルの身体にちょっと触れるくらい。

 それでも慣れてない学生からしたらチャレンジだろうが。


 オーマも学生に気を遣い、挑戦的なことはさせないのだろう。


「準備は終わったのですよね? この子に少し乗って、運動をさせてあげたらどうでしょうか」


 スレイプニルがじーっとオーマを見る。すっごい見ている。


「……いいのか?」

「きゅい!」

「いや、大学の規則的に……」


 ええっ!? 学内での騎乗は規則違反だった!?


「それは……その、そのう……」


 わからぬ。

 イセルナーレ魔術大学にはよくわからない規則がズラッと並ぶ。


 その中には騎乗禁止の項目があったかも……なかったかも……。


「きゅきゅい!」


 悪かったらあとで謝ろうよ!

 ぽにっとペンギン的発想を繰り出すルル。


 エミリアはもう人前でスレイプニルに乗ったわけで、それしかない。


 オーマがスレイプニルと視線を交わし続けている。

 果たして、どこまで通じるのか。


 でもエミリアにはわかっていた。

 

 この子はオーマに乗ってもらいたがっている……!

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