305.騎乗
エミリアは犬ちゃんをテーブルの上に乗せると、スレイプニルの背を撫でた。
がっしりとして力強く、気力に満ちている。
(この子が感じていたのは――)
動物学はイセルナーレで重視されるルーン魔術の系統ではない。
むしろ精霊魔術の系統だ。
しかも出自がある。
先生とて、学生から舐められることがあるのだ。
エミリアも最初来た時、ガネットやキャレシーに舐められていたし。
魔力があるとそのような鼻っ柱が育ちやすい……。
(……だったら!)
エミリアは意を決してスレイプニルに飛び乗った。
驚いたのは会場の外に待機していた学生たちである。
「えええっ!? スレイプニルに乗ったぁっ!?」
「そ、そういうのアリだっけ……!?」
「ナシだろ! そーいう授業じゃないはず……!!」
集まっていた学生は10人ほど。
その全員が目を丸め、驚いていた。
スレイプニルが威圧するように大股に歩き始める。
ちょっと筋肉が固いかも。
運動不足な気がする。
「もしかして試験が近いから、のびのびできなかった?」
「ぶるる……っ」
スレイプニルがこくんと頷く。
昨日の状況からすると……この子の好きなようにさせるのは勇気がいるかもしれない。
でも今のスレイプニルは身体をぐーっと伸ばし、威厳をもって歩いている。
周囲の学生はあんぐりとエミリアを見つめていた。
「す、すげー……」
「迫力あるな、おい」
テーブルに当たってはいけないので、会場から少し離れるように……。
そこでオーマがエミリアのスレイプニル騎乗に気がついた。
「ちょっ!? なにを……!」
「いえ、この子が運動不足のようで」
しれっと言ってのけるエミリア。
ルルも羽をぴこっと掲げる。
「きゅっ!」
「いやいや、そうだとしても――」
「ぶるんっ!!」
スレイプニルが鼻息を鳴らし、オーマを睨んだ。
昨日の今日でそんなことをされたら、オーマも言葉を飲み込まざるを得ない。
「……何がそんなに不満なんだ?」
「…………」
スレイプニルはぷいっと顔を背ける。
「どうどう……」
エミリアはスレイプニルの手綱を取り、お散歩を再開した。
(この子も素直じゃないなぁ)
スレイプニルは誇り高い馬だ。
立派な体格と高い知能、希少性……同胞の馬より速く長く走れることを自負している。
主の選定においても、一般的にスレイプニルのハードルは高い。
暴れ馬が多いということではないのだが、知能が高いがゆえにスレイプニル自身も色々と考えてしまうのだ。
この大学内でスレイプニルに乗ることは、講義の中にないはず。
それは学生には難しすぎるから。
答案用紙をちらっと見た限り、問われるのはスレイプニルの生態だけ。
(……鬱屈もしちゃうわけよね)
あとは……実技でスレイプニルの身体にちょっと触れるくらい。
それでも慣れてない学生からしたらチャレンジだろうが。
オーマも学生に気を遣い、挑戦的なことはさせないのだろう。
「準備は終わったのですよね? この子に少し乗って、運動をさせてあげたらどうでしょうか」
スレイプニルがじーっとオーマを見る。すっごい見ている。
「……いいのか?」
「きゅい!」
「いや、大学の規則的に……」
ええっ!? 学内での騎乗は規則違反だった!?
「それは……その、そのう……」
わからぬ。
イセルナーレ魔術大学にはよくわからない規則がズラッと並ぶ。
その中には騎乗禁止の項目があったかも……なかったかも……。
「きゅきゅい!」
悪かったらあとで謝ろうよ!
ぽにっとペンギン的発想を繰り出すルル。
エミリアはもう人前でスレイプニルに乗ったわけで、それしかない。
オーマがスレイプニルと視線を交わし続けている。
果たして、どこまで通じるのか。
でもエミリアにはわかっていた。
この子はオーマに乗ってもらいたがっている……!
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