304.猫と黒馬とペンギンと
膝の上で甘えてくる犬ちゃんを撫でて猫ちゃんにもそーっと手を伸ばす。
「……にゃう」
むう、猫ちゃんは耳をぺたりと閉じた。馴れ合ってくれるつもりがないらしい。
なかなか気難しくて、可愛い子じゃないか……。
猫ちゃんはそばにいるルルのほうに頭を向けて、そのままお腹に顔を突っ込ませる。
セリスと似た、ヘッドモフモフである。
「きゅいきゅい」
ルルは悠然と猫ちゃんのモフモフを受けて、頭を撫でる。
もふられた分は、もふって回収する。
それがルルの流儀だ。エミリアもセリスもよく髪をもみもみされる。
「きゅー……」
そして驚くべきことに、ルルはぺたっと伏せてある耳と頭の間に羽を差し込もうとしていた。
なんという暴挙! 神をも畏れぬ行い!
(猫ちゃんの伏せてある耳は神聖なのに……!)
さすがのエミリアも猫ちゃんの伏せてある耳には触らない。
あの隙間には夢が無限に広がっている気がするが、やはり勇気がないのだ。
だが、ルルはふにふにふにーっと羽を差し込む。
エミリアからは猫ちゃんの表情は見えなかったが(ルルのお腹に埋まっている)、尻尾がすすっーと浮いて逆立っていた。
猫ちゃんの尻尾はルルの羽に物申したい気分だと語っていた。
だが、ゆらゆらと尻尾は揺れるだけだ。
とりあえずはもふもふ等価交換を続ける意向のようだ。
「にゃう」
「きゅいー」
その間、オーマは大急ぎでテーブルの上に用紙を並べ続けている。
(私は何もしなくてもいいのかな……?)
まぁ、何もしていないわけではないのだけれど。
でもアニマルなパラダイスにいるだけで良いのだろうかという気分にはなる。
「ぶるる……」
スレイプニルが鼻を鳴らして、オーマを睨む。
不満。やるせなさ。
スレイプニルは人の言葉を話せない。
だけどその黒の瞳、体躯は雄弁に感情を語っていた。
エミリアが手を伸ばし、スレイプニルの身体を撫でる。
「……何が不満なの?」
「ぶる……っ」
スレイプニルは目をエミリアからそらした。
言いたくないようだ。
(ふむ……)
オーマの経歴をふと思い出す。
彼は確か、非貴族出身の教職員だったはず。こうしていても彼からは魔力をさほど感じない……。
だとすると論文などの功績や動物への造詣で助教授にまでなったのだ。
エミリアが動物たちと戯れている間に、学生がぼちぼちとやってくる。
まだ試験時間には早いので、テーブルの並ぶ外側、エミリアの近くに集まっているが……。
学生たちの話し声が届いてくる。
「先生、どんな問題を出してくるのかな」
「さぁ……? この授業は魔力を使う実技がないから楽〜」
「言えてる。そういえば、聞いた?」
「なに?」
「オーマ先生、またスレイプニルに引きずられたんだって」
「マージ? 馬にも舐められてるじゃん」
学生の言葉の調子がわかったのだろうか。
スレイプニルがぶるるっと首を振る。
そこでルルが猫ちゃんを撫でる羽を止めて、スレイプニルを見上げた。
「きゅい」
「…………」
「きゅきゅい」
「ぶる……」
「きゅきゅい、きゅきゅ……きゅきゅい」
早口でルルが主張していた。
『そう思ってるなら、やらないと! Do it!』
くらいのような気がする。
「……ぶる」
スレイプニルはいくらか迷っているようだが……でもルルの言いたいことはわかった。
要は評価を覆したいなら、君も動くべきだよということだ。
「私も協力できますよ」
エミリアはスレイプニルの太ももを撫でる。
久し振りにスレイプニルに乗っても大丈夫だろう、多分。
これもお世話のうちなのだから……!
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