301.振り替え
お手伝いと言っても、やるべきことは試験官自身が用意しなければならない。
エミリアのやることはチェックと試験が行われているときの補佐……くらいだ。
「ああ〜……君がお手伝いの〜。よろしくね〜」
「はい、こちらこそ……!」
材質学の教授は恰幅の良い男性で、ヒゲもじゃだった。
普通のサラリーマンっぽくはなく、芸術家みたいだ。
ただ、包容力を感じさせる喋りと雰囲気だった。
「なんてことのない試験だから〜、はい、チェックリスト通りにやってくれれば大丈夫〜」
教授も間延びした喋りで、さほど緊張しているわけではない……。
さすがは教授。
大変落ち着いている。
ぼちぼちと学生も集まり始め、時間通りに試験が始まる。
ヒステリックな状態に陥ってそうな学生はいない……。
ふぅ……神経が高ぶりすぎている魔術師は危険である。
ただ、材質学は高学年の科目であり、受ける側も慣れているので問題はなさそうなだけだ。
材質学の試験は筆記と実技。
答案用紙に書かれた問題への回答と、謎の金属棒の材質を答えること。
(まぁまぁの難易度ね)
答案用紙を見た限りだと出題範囲は広範囲に渡り、計算問題も多い。
(……だいたいの内容はウォリスの貴族学院と同じかしら?)
ただ、ウォリスに比べると計算問題の比重が多いかも。
この辺りはお国柄かもしれない。
ただ、なんにせよエミリアもリラックスして手伝うことができた。
試験は1時間ほどで終わる。
「はい、ありがとう〜。ここはもう大丈夫だから、次に行ってもらって大丈夫〜」
「ありがとうございます……!」
「そちらも頑張ってね〜」
予定より早く解放され、エミリアはまた次の試験の手伝いに向かう。
それもこの辺りの校舎だ。
どうやら今日の試験のお手伝いは高学年向けの科目だけらしい。
(トリスターノさんが配慮してくれたのかしら?)
試験官が相応のベテランで、高学年の学生だけが受験するならトラブルは少ない。
とはいえ、たまに校舎のどこかから悲鳴は上がるのだが……。
次々と試験のお手伝いをこなして、夕方になった。
緊張はするものの作業の難易度は高くない……その日の終わりに、エミリアは大学の職員窓口に向かった。
(変更があるかもだから、毎日来るように……だものね)
あとは精算も含めて。
この仕事も日払いでお金が払われるのは嬉しい。
窓口に行くと職員から明日の書類を受け取る。
「追加の指示があるようですので、ご確認ください」
「はい、ありがとうございます」
ふむ、と見ると……指示書類の1枚目にはこう書かれていた。
『エミリア・セリドは懇意にしている精霊を連れてくること。不可能な場合は職員窓口に申し出ること』
(ルルのこと? なぜかしら……?)
わからぬ。
ルルを連れてくるように、という指示は初めてだった。
一応、明日はセリスがいてくれるからフォードのことは問題ない……。
ぺらりと書類の2枚目を確認する。
そこにはいくつか取り消し線が引かれており、新しい指示書きがしてあった。
『動物学の試験補佐を命じる』
ほうほう……。
最初の予定では、他の科目が入っていたけれど。
もしかして昼の一幕のおかげだろうか。
動物と触れ合うのは好きなので、特に問題はない。
アンドリアでビーバーへの接し方を
見るに、ルルも大丈夫だろうし。
「問題はありませんか?」
「ええ、承りました」
こうして翌日の予定が少し変わることになった。
ちなみに暴れスレイプニルを落ち着かせた手当は、2万ナーレ、日本円にして4万円。
なのでエミリアはうきうき気分でデザートを買って、家路についたのであった。
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