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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
4-2 ふたつの因縁

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298.暴れ動物

「改めて、心に銘じます」

「あなたなら心配はないでしょうが……頼みましたよ」


 トリスターノは人の輪に戻っていった。


 ふぅ……とエミリアは息を吐く。


 試験期間中の働き方は少し特殊だ。


 自分担当の試験が来るまで、教職員は他の試験の手伝いをする。


 エミリアは大学講師になってから、他の教職員の手伝いをしたことがなかった……。


(大丈夫よね、多分……!)


 魔術学部の教職員の名前などはさすがに頭へ入れている。


 まずは――エミリアが書類を再確認する。


(私が補佐するのは材質学の試験ね)


 ルーンを刻む材質はおおよそ金属や石、木材など硬い物質に限られる。


 最重視されるのは金属だが、他の素材も知らなければならない。


 というのが材質学……大学では2年、3年目で学ぶ科目だ。


「いつもの校舎からだと――」


 材質学は鍛冶、冶金などにも近しい。


 試験の校舎はエミリアが普段講義している校舎から離れていた。


 時間には余裕はあるが、なるべく早く到着したほうがいい気がする。


 ということで書類が山盛りに入ったカバンを肩にしながら、エミリアは早歩きで試験の校舎に向かった。


 葉の落ちた木々をすり抜け、年季の入った建物を横目にしながら。


「今日は寒くなりそう……」


 まだ朝なのを差し引いても、かなり寒めだ。


 試験期間中、大学内では無料で紅茶やコーヒーが振る舞われるという。


 後で受け取ろうと心に決めつつ、エミリアが目的地へ歩き続けると……。


 近くから揺らめく魔力を感じ取った。


「ん……?」


 人の魔力ではない。

 ルーン魔術で鍛えられた改良種の馬、スレイプニルの魔力だ。


 同時に近くから怒号が聞こえてきた。


「まったく! 少しは落ち着いてくれー!」

「駄目だ! 先生方になんとか……!」


 首を伸ばして揺れ動く魔力のほうを見ると、木々の間に運動場のようなものがある。


「一応、私も先生ではあるけれど……」


 スレイプニルの魔力に叫ぶ人。


 臨時講師のエミリアが関わっていいものか悩むが、まだ時間はある。

 同じ大学内のことだ。トラブルは教職員で対処しなくては。


 さきほどもトリスターノに言われたばかりでもあるし。


 エミリアが目的地への道を横に、すすっと運動場へ足へ向ける。


「も、もう限界だー!」


 ちょうど、そのタイミングでスレイプニルが道へと踊り出てきた。


 その腰元にはふたりの大人がすがりつくようにスレイプニルを抑えようとしている。


 が、黒光りする立派なスレイプニルは明らかに興奮して、怒っていた。


「ぶるるるっ!!」

「……これはマズいわね」


 スレイプニルは体格、持久力ともに普通の馬とは比べ物にならない。


 つまり興奮状態になったら……その制御は困難極まる。


 腰元のふたりが口々にエミリアへ叫ぶ。


「あ、あんた! 危ないぞ、逃げろ!」

「そうだ! トリスターノ教授かガンツ教授を――」


 スレイプニルはぶるんと腰を揺らし、ふたりを振り回す。


 そのままふたりを引きずりながら、運動場から出ようとして――周囲も騒ぎに気が付き出していた。


(スレイプニルになら……っ)


 馬はきっと張り詰めた学内の雰囲気に呑まれ、興奮しているだけだ。


 エミリアはふっと呼吸を整える。


 やり方としては精霊と心を通わせるのと同じ。

 ただ、馬と心を合わせようとするだけだ。


 スレイプニルがエミリアの前に突進してくる。


「おいっ! 逃げ――」


 平常心。穏やかな心。

 何度も繰り返した所作を怠りなく、再び繰り返す。


 深く、そっと。

 スレイプニルが首を持ち上げて威嚇してくる。


「ぶるるっ!!」


 だけど慌てない。

 この子は……怖がっているだけ。


「大丈夫だから、ね?」


 エミリアが手をかざすと、スレイプニルが急停止した。


 同時に周囲からどっと人が集まってくる。

 どうどうとエミリアはそのままスレイプニルの首を撫でて落ち着かせる。


「……ぶる」

「ふぅ……落ち着いた?」


 スレイプニルがちょっと恥ずかしそうに頷く。

 どうやら平静さを取り戻してくれたみたいだ。これで一安心。


「こりゃ〜……驚いた。暴れスレイプニルが出たっと言うんで慌てて来てみれば……」


 人だかりの中から、ひょこひょこと杖をついた老紳士が現れる。


 ターバンを被り、長いヒゲを蓄えた老人だ。


 老紳士は多分、教職員なのだろう。服のセンスが自分やトリスターノと同じだ。


 一見して彼からは魔力をほとんど感じない。

 だが、それが彼の実力を感じさせた。


 というのも興奮したスレイプニルが近くにいるのだ。魔力を完全に隠蔽する平常心は難しい。

 今は大なり小なり、近くの教職員の魔力が揺らいでいる。


 なのにこの老紳士とエミリアだけは全く魔力が揺らいでいなかった。


 スレイプニルにしがみついていたふたりが、老紳士へ助けを乞う視線を送る。


「ガ、ガンツ教授〜……」

「やれやれ。まーったく……情けないの」


 ガンツはヒゲを撫でながら、スレイプニルに臆することなく近付く。

 その足取りには恐怖心がまるでない。


 エミリアを信用しているのか、スレイプニルの状態をきちんと見抜いているのか。


「こいつらに比べると、あんたは見所がありそうじゃ。助かったわい」

「いえ……助けになったのなら、何よりです」


 エミリアは息を軽く呑んだ。


 ガンツ教授と呼ばれたこの老紳士。


(間違いでなければ……)


 イセルナーレ魔術大学で、精霊魔術を教えている最年長の教授。

 それがガンツ・ペラーダのはずだった。

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精霊魔術のでぇベテランおじいちゃん 強い老人キャラは好きですよ…
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