295.誕生日会③
「ううーん、美味しい〜……」
「きゅう〜……!」
頬をもっちもちにさせ、フォードとルルがケーキを堪能している。
セリスも幸せな表情を浮かべながら、サーモンのカルパッチョを取り皿に分けて、口に放り込む。
「オードブルもありますからね。ううん、酸味と脂がまた……」
「きゅい!」
味の濃いケーキは食べ続けると舌が麻痺してくる。
適度に食べるものを変えたほうがいいのは、その通り。
「ハムとチーズもあるよー、僕はハムからにしようかなー?」
フォードとルルがオードブルからハムを取り分け、口に運ぶ。
エミリアも子どもたちにならい、ハムをもぐもぐ……。
アンドリア産のハムは力強く塩気がある。だが、塩気は表面だけ。
噛むほどに熟成された肉の旨味が染み出て、口内を刺激する。
この塩気が甘いケーキと対照になって、新鮮な心地を運んでくれる。
さらに合わせるのはレモネードだ。
今日はフォードが主役なので、アルコールは控えて……炭酸飲料で流し込む。
「んふー……」
贅沢な晩餐。
甘味を基盤にしてオードブルで適宜味を変え、レモネードを堪能する。
「きゅい」
ルルがフォークでチーズをつまむ。
水牛のチーズは濃すぎず、間に食べるものとしてぴったりだ。
「ハムと一緒に食べるといいの?」
「きゅ!」
食べ続けるフォードとルルにロダンが優しい眼差しを向ける。
「ふむ……良い気分だ」
「まだオードブルはあるし、好きなだけ食べてね」
「君もな」
ロダンの所作は優雅で、見惚れるくらいだ。
彼の手は止まらず、オードブルもケーキも気に入ってくれたのだとわかる。
「ラ・セラリウムのこのケーキは驚くべきものだな。職人が来て作ったとか」
「ええ、そんな機会はめったにないみたいで。まぁ、相応のお値段ではあったけど……」
この大きめのケーキで1万ナーレ。
日本円にして2万円のケーキである。
前世ならちょっとどころではなく手が届かないが……ギルドの仕事のおかけだ。
「俺からもプレゼントがある」
「えっ? なになに?」
「万年筆だ」
ロダンが黒箱を取り出す。
この世界では万年筆はまだまだ高級品である……。
エミリアが生まれてから本格的な特許と製造が始まったくらいだ。
「あっ! ペンだ!」
「これで色々と書いてみるといい」
「うんっ! ありがとうー!」
読書好きなフォードに読み書きを教えるのに、ぴったりだろう。
で、セリスは小さめのクッションを取り出した。
「私からはふっかふかのクッションです……! どうぞ、お昼寝のおともに!」
「きゅいー!」
自身の身体より少し大きい(ちゃんと測った)、濃い藍色のクッションをルルが抱きしめる。
家にあるクッションは大きかったりなので、これはほぼルル専用クッションになる予定だ。
ぽふぽふぽふ。
ルルがクッションの感触を確かめて、頭をぐりぐりと押し付ける。
どうやら気に入ったらしい。
「よかったね、ルル」
「きゅい〜〜」
あとは皆で大いに食べて、飲んだ。
ノンアルコールだけど。
「ふぃー……食べたー……」
「きゅぅー……」
フォードとルルはくっついてごろんと寝ている。
ほっぺぷにぷににフォードがぽよぽよお腹のルルに……。
気持ち良さそうだった。
セリスがパタパタと働き、エミリアにロダンを見送るよう勧める。
「片付けは私のほうでやっておきますので……!」
「い、いいの?」
「はい、どうぞどうぞ。片付けが終わりましたら、私もルルちゃんを愛でますので……」
ルルの右側はフォードが占有している。左側に滑り込むつもりなのだ。
とはいえ、セリスに気を遣わせてしまった気がする……。
でも彼女のおかげでロダンといる時間が増えるのも確かだった。
こうして誕生日会は終わり、エミリアはロダンを見送ることにした。
ふたりして家から出ると陽は落ちかけており、夜が近付いている。
もう少しで夜が来て、離れなければ。それが切なくも愛おしい。
ロダンがふっと微笑み、エミリアの胸が高鳴った。
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!







