293.誕生日会①
見慣れて歩き慣れた道も、隣に歩く人が違うと大きく違う。
ロダンのそばにいられるのが、嬉しい。
そうしてアパートまで戻ると、フォードもロダンを見て顔を輝かせた。
「ロダンお兄ちゃん、こんにちは!」
「こんにちは。お邪魔する」
「きゅーい!」
ルルも羽をパタパタと振る。
エミリアは上着を脱いで、セリスに目線を送った。
「さて、ロダンにお茶を用意するわね。ついでに昼食も……」
「私も手伝います……!」
こうしてセリスとともにエミリアはリビングを脱出し、誕生日会の準備をぱぱぱーっと進める。
もとい、前日までに当然進めていたわけだが。
買ってきたものを手早く仕分けて……プレゼントも……。
リビングからフォードの声が聞こえてくる。
「なんだか大荷物じゃなかった?」
「……そうか?」
「うん、何を買ってきたの?」
おおっと。
さすがに普段より多すぎたか。
(ふぉぉ……フォードが疑ってる。ロダン、頼むわよ!)
今、エミリアとセリスは手が離せない。
全てロダンに任せるしかない。
「年末は色々な店が休みになるからな。色々と買い込む必要がある」
「へぇー……えっ? お店、休むの?」
フォードが小首を傾げた。
ウォリスでは屋敷暮らしで、休みという概念がなかった。
せいぜい屋敷の人が交代で休むくらい……ゼロになることはない。
そしてこちらに来てからも、イセルナーレは休むという概念は薄そうだった。
観光都市でもあるイセルナーレの王都では、土日祝日に休む店は少ない。
平日に休むことが多く、それさえも交代制で最小限にしようとしている。
(深夜はさすがに休みだけれど……)
日が昇っている間、王都の店の旗やのぼりは常に太陽へ向けられている。
「うむ……年末はかなり静かになる。ほんの数日だがな」
「そうなんだ〜」
「きゅ〜い〜」
ロダンは上手にフォードの興味をズラしていた。
さすがに口が達者である。
そうしてロダンがフォードとルルの話題を引っ張っている間、エミリアたちは誕生日会の準備を整えることができた。
大きなお皿にお祝いのケーキ。
さらに別のお皿にオードブルも。
「はい、お誕生おめでとう……!」
エミリアがケーキの皿を持って登場すると、フォードが目をぱちぱちとさせた。
「うわっ、すっごー! お花だ〜!」
ラ・セラリウムの生ケーキはその通り、花束を模したケーキだった。
純白のクリームの上段には、バター多めのチョコクリームの花が咲く。
濃い白、淡い青、薄い緑……ひとつひとつが手作りの甘味の花。
こんなのはめったに見られるものじゃない。まさに職人芸のケーキだ。
エミリアがケーキをテーブルの上に置く。
ゆったりと食欲をそそる香りがリビングに満ちていった。
「きゅー」
ルルがすでにうっとりとしている。
そこにセリスがオードブルの皿を持ってきた。
サーモンのカルパッチョ、ローストビーフ、ハム、チーズなどなど。
どれも高級品を揃え、ケーキと一緒に食べても良い……はず。
「かなり豪華ですね。おかわりもありますよ!」
フォードたちがオードブルを眺めている間に、エミリアがさっとドリンクも取ってくる。
飲み物は瓶詰めのレモネードだ。甘めのしゅわしゅわ炭酸はオードブルにぴったりである。
「フォード、ルル。プレゼントもあるのよ」
「えっ、どんな?」
「きゅーい?」
エミリアは後ろから小さな黒の箱を差し出した。
グロッサムさんから教えてもらった例の物だ。
「どうぞ、開けてみて」
「うんっ! わぁ、綺麗なフォークだ!」
黒箱の中にエミリアが用意したのは、子ども用の銀フォークだった。
海鳥の彫刻が施され、ルーンの保護もついている。
ルーンを刻んだのはロダンだ。
彼の一流のルーンのおかげで、軽くて丈夫。
それが2本。フォードとルルの分である。お揃いのフォークだ。
フォードがフォークを取り、リビングの光にかざす。
「きらきらしてるね」
「きゅい!」
ルルもフォークを羽に取って、掲げる。
片目をつむって、ルルは大物グルメ屋感を出していた。
「これで食べていいの?」
「もちろんよ」
「やったぁ。じゃあ、ルル……一緒に食べようー!」
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