292.待ち合わせて
12月22日。
待ちに待ったフォードの誕生日だ。
日中、予約したケーキをすすっと取りに行く……。
ラ・セラリウム製の生ケーキ。きっとフォードも喜ぶだろう。
しっかりと箱に固定され、ドライアイスも入れられている。
さらにはちゃんと布製の袋までついていた。
(ラ・セラリウムは菓子で進んでいるって聞いていたけれど……)
ドライアイスはまだイセルナーレでは一般的ではない。あと5年、10年くらいは普及まで時間がかかると言われている。
しかし、ラ・セラリウムではもっと一般的なようだ。ケーキもドライアイスがあれば安心である。
「よし、これで合流ね」
そして帰り道の小さな公園で待っていると、時間より少し前にロダンがやってきた。
ラフな黒服、明らかに非番だ。
「待たせたか?」
「ううん、大丈夫」
今回のフォードの誕生日会はロダンも来てくれることになったのだ。
セリスと一緒にサプライズゲストである。
ロダンの瞳が生ケーキの箱が入った袋に注がれる。
「その箱は俺が持とうか」
「いいの?」
「その店名はケーキだろう。全て君任せというのは……」
「じゃあ、甘えようかな」
エミリアは言って、ロダンに袋を渡した。
これ以外にも色々と予約したものを持ち帰るので、ロダンに持ってもらえるのはありがたい。
箱を受け取ったロダンが公園の出入り口を見る。
「……よし、次は?」
「冬ならサーモンかなって。切り身のを予約してあるわ」
どことなくロダンは嬉しそうだった。
誕生日会に呼ばれたことか、それともケーキの運び役になったからか。
きっと両方だと思いながら、ふたり並んで公園を出る。
12月下旬はさすがに寒い風が吹く。それでも雪が降る気配はなく、着込めばさほどでもない。
王都の街には夏に負けず、色鮮やかな看板とのぼりが立っていた。
年末や新年に向けての商戦などの熱気も最高潮に達しつつある。
「冬だけど活気があるわね」
「イセルナーレの冬は春に向けての段階だ。新年を祝う気持ちも強い」
公園を出てから、エミリアはこれまでより一歩だけロダンに近い距離で歩いた。
人前で腕を組んだりは……まだちょっと早い気がするので。
「……エミリア」
「ん? 何かしら?」
エミリアがロダンに声を掛けられ、彼を見上げると――ふっとロダンが腕を回してエミリアの腕を取った。
あまりに自然な動きだったので、エミリアも反応できないほど。
気が付くとロダンのたくましい腕がエミリアの身体に触れていた。
もちろん嫌なわけではなかった。
ただ……恥ずかしかっただけなのかもしれない。ロダンがふっと微笑む。
「悪くないだろう」
「……狙っていたの?」
「さぁな」
先日の夜会から、さらにロダンとの距離が縮まった気がする。
あの時はもう、あれから近寄ることは早々ないと思ったのに。
(心の距離というのは、どこまでも近くなれるのね)
ふたりで歩調を合わせながら冬の街を歩く。
こうして次々と予約した店で品物を受け取り……結構な荷物になった。
ケーキ、他のご馳走、プレゼント……。
イセルナーレに来て初めてのフォードの誕生日。気合を入れすぎたかもしれない……!
ひとりで持って帰るとなると、かなりヤバめの量だった。ロダンがいたのでセーフだけれど。
最後の店から予約品を受け取ると、さすがにロダンの腕が完全に塞がってしまう。
「だ、大丈夫?」
「重さ的には問題ない。この程度ならな」
本格的に鍛えまくっているロダンで良かった。
ロダンの銀の髪が揺れる。
「これだけの量をエミリアが持つのは無謀かもな。来年も俺が持とう」
「……! そうね、お願いしてもいい?」
「構わない。持たせてくれるならな」
ロダンは照れたりなどほとんどしない。でもかすかに魔力が揺れたのが、エミリアにはわかった。
自分だけが彼の心の動きをわかっている。それがエミリアには嬉しかった。
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