290.セリスとスクワット
エミリアがフォードの誕生日ケーキを選定している頃。
そのフォードとルルは……セリスと遊んでいた。
「きゅーい」
たぷたぷ。
本日のルルはスクワットである。
理由は特にない。運動不足解消であった。
ルルは暑い時も寒い時もお外に出たくない。
ぬくぬく大好きっ子なのだ。
たっぷんたっぷん。
眼鏡をかけたセリスが『運動の本』を開いて頷く。
「そんな感じです、ルルちゃん」
「きゅっ、きゅい」
ふにふに、たっぷ。
スクワット(らしき運動)をするたびにルルの羽が揺れる。
ルルの隣ではフォードもスクワットをしていた。
いっちに、さんし……。
「はぁ……これ、すごく疲れる……」
「フォード君はそんなにやらなくても」
「きゅっきゅー」
たっぷたぷ。
ルルのスクワットは続く……。
「ううん、お外に出れてないから……動きたくて……」
「なるほど……」
たぷたぷたぷぷ。
ルルの身体は上下に動いている。
本に栞を挟んで、様子を見守るセリス。
彼女がくいっと眼鏡を上げる。
(そもそもペンギンってスクワットできるのでしょうか……?)
わからぬ。
ペンギンは確か、足が折りたたまれていたような……あれでスクワットができるのか。
いや、そもそもルルがやっているのはスクワットなのか?
「きゅっ、きゅっ。きゅー」
実はお腹の筋肉を伸ばしたり縮めたりしているだけという話も……。
(ルルちゃんの可愛らしい脚はただいま、毛に覆われていますからね)
スーパーウィンターモードのルルがどのような体勢なのか、わからぬ……。
フォードが息を吐きながら、ぺたりと床に座り込む。体力の限界を迎えたらしい。
「セリスお姉ちゃんは、スクワット、できる……?」
「できますよ!」
本を置いて、セリスがすぅ……と息を吸って吐く。
いっちに、さんし……。
セリスは見事なスクワットを披露した。体幹も脚の動きも完璧であった。
「すっ、すごーい!」
「きゅきゅーい!」
ほっほっとスクワットをしながら、セリスが答える。
「ふふっ……私はインドアのように見えるでしょうが、鍛錬は欠かしていません」
「きゅい?」
どーして?
と、ルルが首を傾げる。
「精霊魔術師は文武両道が基本ですからね。長時間、精霊と繋がるために必要なのは心身の頑強さ。身体も鍛えてこそ一流の精霊魔術師なのです……!」
セリスの説明はおおむね正しい。
しかしセリスはあえて一部分を省いていた。
それは精霊魔術師が軍事戦力のひとつであるという事実だ。
真に優れた精霊魔術師は万の雑兵に匹敵する――これはウォリスの格言である。
今はそこまでではないとはいえ、優れた精霊魔術師が百の兵に勝てる可能性があるのは事実だ。
(まぁ、それはおいおい知ればいいとして……)
セリスも父から魔術師としての責務を果たすよう期待されていた。
その結果がスクワットをこなせる肉体というわけだ……。
と、そこでスクワットを続けながらセリスはルルを見つめた。
身体がたぷたぷしていない!
スクワットを止めているのだ。
「ルルちゃん? 動きが止まってるような……」
「……きゅい」
ルルがふにっと頷く。
脂肪が燃えるのを感じて、お腹が空きました。
ということで、スクワットを止めたらしい。
セリスが眼鏡の奥の目を細める。
「いえ、たぷたぷを数えていましたが、まだ20回もスクワットしてませんよね……?」
「きゅい!?」
数えていたの!?
ルルはびっくりしていた。まさかたぷたぷスクワットがカウントされていたなんて。
エミリアの代わりにフォードとルルを預かるセリスに妥協という言葉はない。
「私だけ続けてもしょうがないです。ひと休みしたらまた再開しましょう」
「きゅ……」
ルルがちょっと顔を渋める。
しかし、仕方ない。お外に出ない分、身体を動かさなくては。
セリスだけがスクワットしているのも、確かに意味不明だし……。
「きゅい!」
たっぷたぷたっぷん。
ルルがスクワットを再開する。これも健康のためなのだ。
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