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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
4-2 ふたつの因縁

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286.スケジュール管理

 まずそのまま手に持ったフォークに集中する。


 モノが小さいので、ルーンの魔力が内部まで浸透しており少し危険だ。


 うっかりやり過ぎるとフォークそのものにヒビが入るかもしれない。


「ふぅー……」


 エミリアは首をこきりと鳴らしてから、フォークを顔の真ん前に持ってくる。


 それから目を閉じて――集中する。


 銀合金のフォークの装飾に指を這わせながら、慎重に魔力を散らす。


 跳ねる魚や浜辺の彫刻はまさに職人芸だ。このフォークを作る側も心血を注いだのが見て取れる。


 しかし、贈られて使うのは子ども。

 

 だから保護のルーンで守ったわけだ……その子どものさらに子どもの時になってもフォークが受け継がれるように。


 じわりじわりとルーンの魔力を消す。


 年末、慌ただしい工房の音を意識から遠ざけながら……。


 フォークの魔力が完全になくなったのを確認して、エミリアは目を開ける。


「うん、大丈夫」


 息を吐いてフォークをテーブルの上に置く。


 グロッサムはまだ書類にかかりきりになっていた。


「その書類はどのような……?」

「んあ? 年末から新年のスケジュールを詰めてるんだ。資材が遅れたり、早まったり……年末の恒例だがウチの連中を遊ばせておくわけにはいかん。予定を常に確認して、調整しなくちゃあな」


 グロッサムがペンを置いて、伸びをする。


「昔はばーっとできたんだがなぁ。最近、文字が小さい」

「ほうほう……」


 2本目のフォークのルーンに集中しながら、片目を開けた。


 最初の1本目がちゃんとできて感覚が掴めれば速くなる。


 1本目の半分ほどの時間で2本目のフォークのルーンも消し終えることができた。


「グロッサムさん、どのようにスケジュールを……?」

「んう? 見るか?」


 グロッサムが紙をすすーっとエミリアのほうへ押す。


 中身は縦の表に色々とリードタイムを記述した書類だった。


「例えば紙を小さく切って、ボードにピン留めするみたいな……」

「ん……?」


 エミリアが空いている壁の一角を指差す。あそこならちょうど良いような気がした。


 この世界にまだホワイトボードは存在しない。


 だが工業規格のピンとかはある。

 それを使えば、皆にわかりやすくスケジュール管理もできるのではないだろうか。


「どんなふうにやるんだ? ちょっと見せてくれ」

「ええと、こんなふうに……」


 エミリアはグロッサムから真っ白な紙を渡された。

 それをカッティングナイフで裁断し、小さく整える。


 手頃な画鋲があったので、それを壁にぺしっと……。


「この横軸を日付にして、こーんな感じで……」


 ぺしぺしと。

 壁に紙を貼っていく。


 その様子をじっと眺めていたグロッサムは、髭を弄りながら感心する。


「終わったらまとめるか、廃棄すればいいわけか。なるほどなぁ」

「……どうでしょう?」


 いまさらながらに余計なことだったかもと思い始めた。


 だけど、効率性は工房の命だ。

 それに年末でバタバタする職人の仲間は見たくない……。


 それにさきほど、フォークについて良い話を聞かせてもらったし。


「いい案だ。試してみるか」

「いきなりですか!?」

「そりゃあ、このスケジュール書いてたのだって途中だからな。まだまだアクシデントが起きて、どうせ変わっていきやがる」


 ふんとグロッサムが鼻を鳴らす。


「だったら乗り換えたほうがいい。良い列車ってのは速い列車だ」

「ええ……そうですね」


 グロッサムは保守的なようでいて、エミリアなどを重用する。進歩的な面は相当にありそうだった。


「ようし、お前ら! 年末のスケジュールを気合入れて新調するぞっ!」


 わたわたと壁にボードを取り付けるところから。工房の壁の改造作業が始まってしまった。


 そこでどんと監督するグロッサムに、エミリアはすすっと近寄って聞く。


 フォークの贈答の話で、もうひとつ聞きたいことがあるのだ。


「あのー」

「なんだ?」

「つかぬことを聞くのですが、ペンギンにプレゼントするものとかってあります?」

「なんでだ?」

「誕生日的なものなので」


 グロッサムが顎ヒゲを撫でる。

 ちょっと彼の目が泳いでいた。


「そりゃあ――魚じゃねぇか? 多分……」


 やっぱりペンギン向けのプレゼントには心当たりがないらしい。


 まぁ、当然かもしれなかった……。

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― 新着の感想 ―
フォードとお揃いなら何でも喜びそうな気がする。
ルルへのプレゼント…蝶ネクタイとかどうでしょう? 先日、本屋でそんなキャラクターが書かれた小説を見つけちゃったんですよね(^^; あ…著作権とか引っ掛かりますかね?サン○○とかにもそんな子がいたような…
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