284.誕生日の習慣
ルルの顔は真剣だった。
多分、きっと……ぽよぽよしているので、わかりづらいが。
串を焼いている時と同じくらいは真剣である。
それをエミリアは嬉しく思いながら、顎に手を当てた。
「……そうね、オーソドックスにケーキは用意しようかなと」
「きゅい」
順当です。
ルルが頷いた。
「あとは……ウォリスでは山の幸を用意するのよね。それくらいかしら……」
実はウォリスにおいて、毎年の誕生日に祝うという習慣はない。
これは庶民から王族までほぼ共通している。
そう、ウォリスの貴族でさえ途中でスキップするのが当たり前。
(だからまぁ、杯の儀式が頭に残っていたわけだけど)
セリド公爵家はマメなほうだったはず。
貴族学院時代に、誕生日をスルーしている同級生はたくさんいた。
ウォリスで毎年誕生日を祝うという発想は国王くらい……。
さすがに国王だけは毎年、宮廷で誕生日が祝われている。
イセルナーレではどうなのだろう?
まぁ、ウォリスと同じでもエミリアは祝うつもりではあるが。
毎年祝っても別にいいはずだ。
「何か特別なことがあるなら、フォードに体験してもらいたくはあるのよね」
「きゅー」
いいと思います。
ぴこぴことルルが羽を動かした。
「きゅー、きゅい……」
ではウォリスとイセルナーレの様式をミックスにすると?
どうするか大枠が決まってから、色々と考えますか……。
ルルがふむふむと頷く。
「きゅー?」
あのロダンに聞かなかったのは?
ルルの疑問にエミリアが答える。
「彼の家はちょっと例外だもの。あまり参考にするのもね……」
もうエミリアとフォードは貴族ではない。ロダンとどうなるか、というのはあるにしても。
イセルナーレの普通、という感覚に慣れさせておく必要はある。
「きゅう」
ふむふむ。
たくさんの理があります。
そこでエミリアはルルを抱きかかえながら、聞いてみる。
前にも聞いた気がしたのだけど。
いい機会だ。
「ちなみにルルの誕生日は――」
「きゅ……」
海は……自由ですから……。
ルルが遠い目をした。
そう、誕生日を聞いてもしっかりとした日付は返ってこないのだ。
「きゅぅ……」
海は……広いですから……。
なおも遠い目をするルルに、エミリアはふかふかと頭を寄せる。
「……もしかして忘れてる?」
「きゅっ……」
そうとも言えるような……。
ルルは深く頷いた。
絶対にそうだと思った。
ルルは人の誕生日は記憶しているが、自分のことは気にしないタイプなのだ……。
「そうしたらフォードと一緒に祝うのは?」
「きゅっ!?」
いいんですか!?
ルルの目がぱぁっと輝く。
「ええ、あなたも家族だもの」
とりあえず暫定的にフォードと一緒にしてしまう形にはなるが。
それでも当人が完璧に忘れているのなら、まぁ……いいのではないだろうか。
「きゅー!」
ルルが羽をぽにぽにさせる。
どうやら異存はないようだった。
「ふふふっ……」
エミリアが微笑みながら、ルルを抱きしめる。
家族が喜んでくれるのなら、なんでも嬉しいものだ。
そこでソファーのフォードがもぞもぞと動いた。
「うーん……? ルル……?」
どうやらルルがいないことに気が付いたようだった。
抱き枕代わりのルルをフォードの腕の中に戻さなくては。
「この件はまたね、ルル」
「きゅっ!」
決意を秘めた目でルルが頷く。
エミリアが力を緩めると、ルルはぴょんと床に着地した。
そのままルルはぽにぽにとフォードの元へ戻っていく。
「きゅい」
ふにふに。きゅむっと。
ルルは何食わぬ顔でフォードの腕の中に身体をめり込ませた。
それを見届けたエミリアもまた、資料に戻る。
フォードの誕生日と試験内容の組み立て。考えることは色々とある。
でも全然苦しくはない。家族のことも仕事のことも楽しいのだ。
「ふかふか〜……」
フォードが帰還したルルに頭を寄せる。
エミリアはふたりのお昼寝を眺めながら、資料に向き合うのだった。
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