280.過去8
最初は同じく旅行好きの貴族たちのグループだと思った。
コルドゥラは深く考えもせず、そのグループと親交を持ったという。
「今から思うと少し変わっていたかもね。史跡や古書に興味が偏ってて……新しい商業施設なんかには見向きもしなかったから」
だが、そのような趣味もあるだろうとコルドゥラは納得した。
その頃、イセルナーレでは鉄道が普及し始めて――各地で地域振興が活発化していた。
それに伴い、史跡巡りがブームになっていたのだとか。
「地元の人にとっては、駅や路線を作ってもらう目的もあったのでしょうね。私たちの村や街にはこんな歴史があった、価値があったと……」
観光ガイドブックも飛ぶように売れる中で、よりニッチなグループがあっても不思議ではないと思ったのだ。
「……もしかすると触発されたのかもしれませんね」
「墓掘り人が鉄道や観光ブームに……? ええ、そうかもしれないわ。私の子どもの頃、地方の人々の警戒心は強かった。見知らぬ魔術師がふらふらしていたら、目立ったでしょう」
「恐らくは」
墓掘り人の起源や歴史はわからぬ。
だが、コルドゥラの指摘は当たっているだろう。
コルドゥラが子どもの頃、50年も昔は馬も魔術師も希少で目立つ。
大々的に活動していたとは考えられなかった。
「そうね……昔は本当に細々とやっていたのでしょう。でも私の知る頃には、かなりの規模になっていたはず」
そうして接触してきた墓掘り人はコルドゥラと交流を重ねた。
「具体的にはどのような?」
「私の旅行ルートに、知られざる史跡があるかとか……レポートを欲しがったり。あるいは古書好き、収集家の貴族を知りたがったりよ」
「ごく普通のことですね」
ロダンはさしたる感情も込めずに、コルドゥラの話を聞いていた。
レッサムとマルテに比べて、なんと牧歌的なことか。
「そう、仲間内で旅行記を書いては回し読みをしていたわ。次はあそこ、来年は向こう……でも、途中から本当に少し変わってきた」
「…………」
「グループが私の書いたものにお金を払ってくれるようになったの。まぁ、大した額じゃないけれど。ちょっとしたお小遣いくらいね」
「どのような名目で?」
「さぁ、グループからは文章が上手いって言われたわ。本当かしらね? あとは……私には時間があった」
時間――コルドゥラには子がいなかった。
ロダンの父である先代カーリック伯爵とコルドゥラには、子どもがいなかった。
そしてロダンが3歳になるまで、コルドゥラは断固として子を諦めなかった。
しかし、最終的にコルドゥラは実子を諦めてロダンを迎え入れる決断をしたのだ。
だからコルドゥラには時間があった。
旅行、書き物をする時間があった。
コルドゥラはどこか寂しそうにしている。
「ロダン……あなたはもう大人になった。私が思うよりも早く、ね」
「母上……」
「私は旅行の趣味を続けて、社交界から離れなかった。あの人は……もう私を見ていなかった」
あの人――先代カーリック伯爵。
ロダンの父。母マルテの愛した人。
そしてコルドゥラの夫。
「私は認められたかったのだと思う。趣味のグループでね。違和感を覚えた瞬間はいくつもあったけれど、気付かない振りをした」
「それで墓掘り人に意図せず協力したと」
「ええ――だけど、あなたに言っていなかったことがあるわ」
コルドゥラの視線はテラスの花に向かっていた。
「もしかしたら言うべき日が一生来ないかもと思った。本当はそのほうが良かった。でも運命は……あなたの正義と才覚は、やはりカーリック家を背負う定めにあるのね」
常に凍っているロダンの心がわずかに揺れた。
「レッサムが墓掘り人だと、私は前々から知っていた。だからあなたとマルテを引き裂くよう指示したのよ。あなたがモーガンと関わらないようにするために」
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