279.母の警告
第116話から第118話までをお読み頂くと、一層楽しめると思います。
思ってもみなかったコルドゥラの一言に、ロダンの思考が走る。
(それは――モーガンの杯のことか?)
セリド公爵家が呪われている、というような公式の評はない。
ロダンがウォリスに留学していた時も、今のイセルナーレでも……。
母は何を指しているのか。
指摘して良いものなのか。
次の言葉に迷っていると、コルドゥラが側仕えに下がるよう指示を出した。
側仕えたちが視界から完全に消えて、ようやくコルドゥラが話を続ける。
「もしかして知ってたの?」
と、こちらの戸惑いを指摘してきた。
「……知っていた、というよりは母上は何をもってそのようなことを?」
「…………」
コルドゥラは目を伏せた。
「世の中には知らないほうが良いこともある、というだけよ」
「モーガンのことでしたら、俺はとうに知っていますよ」
ロダンが静かに言うと、コルドゥラが目を開けた。
穏やかに見えるが、目の奥には苛立ち……そして恐れが含まれている。
「ロダン、迂闊にその名前を口にしないで」
「母上は何を恐れているのです? シャレス殿とはすでに懇意ですよ。エミリアもすでにシャレス殿と協力関係にあります」
コルドゥラの意図がわからず、ロダンは付け加えた。
母の懸念はシャレスの警戒を呼ぶことではないかと思ったのだ。
「……シャレスね」
コルドゥラが空を仰いだ。
「ということは、まだあの人は対抗しようとしているのね。彼女に」
「……母上は何をご存じなのですか?」
コルドゥラは侯爵家の出身で、貴族界に深く関わっているのは知っていた。
50代だが、極めて精力的だ。
その中でこのような話をしたことはなかったのに。
「シャレスがいるから安心、などということはないのよ――そんなことは決してない……」
コルドゥラは言ってから、ロダンへ視線を戻した。
「彼女に関わってしまったのなら、もう仕方ないわ。私が知っていることは多くないけれど、あなたはどのように聞いているのかしら?」
「恐ろしいほどの魔術師であると。古代において、現代よりも遥かに高水準のルーン魔術を極めた魔術師」
「そうね。彼女の名前だけは今も現れる。伝説、民話、おとぎ話……恐るべき魔術師として」
モーガンの名前自体は、絵本にも出てくるレベルだ。
しかし多分、絵本に出てくる荒唐無稽な魔術師よりも、実際のモーガンのほうが秀でていた。
イセルナーレ人の夢や空想の領域さえも超える存在、それがモーガンという魔術師だ。
「しかし彼女は伝説上の人物ではない……彼女の遺産はまだ世界に残されている。現代の我々にとってさえ、脅威の遺物として」
「ええ――その通りよ」
そこでふぅ……とコルドゥラは重い息を吐いた。
「私はね、かつてシャレスと同じような仕事をしていたの」
「シャレス殿と同じような……?」
ロダンが知るのは、コルドゥラの40代以降だ。それ以前の話は……間接的にしか聞いたことがない。
ただ、旅行好きとは聞いている。
よく父と出かけていたと。
「モーガンの遺産を調べていたの」
「……!! それは――」
まさか、とロダンは思った。
「言っておくけれど、墓掘り人ではないわ。でも完全に無関係とも言えない。私は色々なところに旅行するのが好きだった……まぁ、利用されていたわけね」
コルドゥラが肩をすくめる。
「旅行好きの貴族からの紹介で、レポートを書いていたのよ。仲の良い貴族向けの……サロンの身内で回し読みする程度の」
ロダンは参加していないが、そのような活動は近年盛んだ。
機械とルーン魔術の発達で、以前よりも時間が増えた。
まして、コルドゥラには子どもが長年いなかったのだから。
「長期休みには色々な国にも行ったわ。あの人と一緒にね。そうして私は意図せず、触れてしまったのよ。この世界最悪の魔術師の足跡にね」
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