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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
4-2 ふたつの因縁

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277.コルドゥラ・カーリック

 数日後、ロダンは今騎士団の仕事を休みにして屋敷にいた。


 正確には書類仕事をしているので、完全なオフではないのだが……。


 執務室で椅子に腰掛けながら、書類をさばいていく。


「ふむ……」


 今、見ているのは王都守護騎士団の新規団員についての書類だ。


 イセルナーレでは秋と春の2回がいわゆる卒業シーズンにあたり、そこに合わせて採用などが行われる。


(団員の確保は人口増により、問題はないが……)


 今、イセルナーレの各騎士団が悩んでいるのは内部構成のバランスだった。


 これまで魔術を基本とする騎士団は貴族階級の出身者がほとんど。


 しかしこの数十年、平民出身の騎士団員は増大を続けている。


 質的には無論、騎士団に入るには厳しい試験があるので問題ではない……。


(貴族出身者を増やそうとする圧力をどう回避していくかだな)


 門閥貴族の多くは魔術分野を重要な既得権益とみなし、非貴族階級を増やすのに反対している。


 いわく、神聖な職務である。教養が問われる。新興階級には荷が重い――と。


(……愚かなことだ)


 ロダン自身は名門カーリック家の当主であるが、そのような見解には同意していなかった。


 母のマルテは平民であったのだから。


 そのような書類作業を続けていると、扉がノックされる。


「失礼いたします……」

「入ってくれ」


 執事が入ってきて、礼をする。

 その顔には戸惑いの色があった。


「どうした?」

「コルドゥラ様が……いますぐロダン様とお茶をともにしたいと」

「母上が……」


 コルドゥラ・カーリックはロダンの母である。


 当然だがロダンの実母ではなく、養母であるわけだが。


 しかし、この事実は慎重に隠されている。マルテの存在は公になっていない。


 このカーリックの屋敷でも勤務年数が短い者は知らない事実だ。


 ただひとつ知られているのは、コルドゥラは屋敷の離れにひとりで住んでいて、ロダンともめったに会わないことである。


「……わかった。離れのテラスか?」

「はい、お待ちになられているようです」


 コルドゥラは離れで植物園を持ち、そこにテラスを置いていた。


 離れに住んでいるからと言って、コルドゥラは閉鎖的なわけではない。


 むしろ頻繁にコルドゥラは友人知人をテラスに招き、社交にも出る。


 生まれ持っての貴族であるコルドゥラのほうがよほど貴族界に浸り、慣れているのだ。


(エミリアの件が母上の耳に入ったか)


 テラスの周りにはぽつぽつとコスモスが咲いていた。


 コルドゥラは季節の花を植えて、一年中何らかの花が咲くようにしている。


 ここに来るのは、いつ振りだろうか……。


 テラスにはすでに紅茶のカップを傾けていたコルドゥラがいた。


 白髪と薄い金髪が混じり、背筋を伸ばしている。


 しかし顔立ちは柔らかく、年齢は60代であったが、それよりはずっと若く見えた。


 ロダンがコルドゥラの対面に座る。


「すぐに来てくれて、嬉しいわ」

「母上もお変わりなく」


 コルドゥラはにこりと人好きがするように微笑んだ。

 

 実際、コルドゥラは隙がない。


 生粋の貴族である彼女は……ロダンにとってもずっと真意が見えない相手だった。


 こうやって向き合うのは久し振りなのだが、コルドゥラの話し方は楽しげで情愛に満ちている。


 ロダンからは不可思議なほどに。


「仕事のほうはどうかしら? 王都守護騎士団は順調?」

「ええ――特に問題もなく」

「ああ、良かったわ。ふぅ……それなら安心ね」


 コルドゥラが胸に手を置き、息を吐く。彼女は常にそうだった。


 礼儀や順番を欠かすことなく、しかし絶対にロダンの住む屋敷には近寄ろうとしない。


 ……息が詰まる。


 側仕えのメイドがロダンの前にカップを置き、紅茶を注ぐ。


 このテラスに比べれば、先日の夜会でブルースが側にいる時のほうがよほど気楽であった。

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