273.冬と春の狭間
ロダンの腕と脚が伸び、ダンスに命の息吹が吹き込まれていく。
いつもは冬の雪みたいに冷たいのに。
彼の腕から、身体から、瞳から――魂から熱を感じる。
『それは春の訪れのように』
あれ?
音が増えた。
ふっと反転際に楽団を見ると、演奏者が増えている。
疑問に思っていると、ロダンが耳元で囁いた。
「俺たちの熱に当てられたのかもな」
「かもしれないわね」
それは誇張ではないように思えた。
他にダンスをする人たちも目を丸くして、この情熱的なダンスを見ている。
音が増えると、より激しく精緻に踊りたくなる。
『春の息吹は次々に、雪と土に埋もれた芽を立ち上がらせる』
星が見つめる中、ロダンと息を合わせて踊るのが本当に楽しい。
でもこんなダンスは確かに、今でないとできないだろう。
季節はまだ真冬なのに、心と身体は春を迎えたみたいだった。
曲調が最高潮に達した瞬間、ふたりは密着して終わった。
どこからともなく、拍手が巻き起こる。
「素晴らしい!」
「まさか延長戦でこんなダンスをお目にかかれるとは……!」
はぁはぁと息を少し切らせて、エミリアとロダンは微笑み合う。
「きゅー!」
「凄かったぁ……!」
テーブルではフォードとルルがぽにぽにと手を叩いてくれていた。
エミリアは熱い息を吐きながら、ロダンに問う。
「まだ踊れるわよね?」
「ああ、まだ一曲目だ。何曲でも……君となら踊れる」
次の曲が始まる。
それはさらに熱を帯びた、激しい曲だった。
身体を燃やすように――エミリアはロダンと次の曲を踊り始める。
力尽きるまで、今夜は踊っていたかった。
それから6曲ほど、全身全霊でダンスして……エミリアは本当に力尽きた。
こんなにもひとりと踊ったのは初めてだった。
「はふ……」
「お母さん、お疲れ様ー! すっごく綺麗だったぁっ!」
「ありがとう、私も心から踊れたわ……」
フォードとルルのいるテーブルに戻り、エミリアは椅子に深く腰掛けていた。
ロダンはドリンクと締めのデザートを探しに行っている。
彼も疲れているはずだが、現役の軍人と大学講師ではやはり体力が違った。
(貴族学院の頃は、ほとんど差がなかったはずなんだけどな……)
ロダンとした決闘の数々を思い出す。
今も23歳ではあるけれど、あの頃は……そう、子どもだった。
何事にも全力で突っ走れる勢いがあったのだ。
「きゅぅ、きゅー」
ルルはフォードの膝の上で横になっていた(ルルの縦横の比はほぼ同じでかなり丸め。なので頭と脚の位置で縦か横かを判断する)
「ルルも感動したって。お腹がいっぱいじゃなければ、もっと踊れたのにー……らしいよ」
「ふふっ、ありがとう。また機会があったら踊りましょう?」
エミリアは手を伸ばしてふかふかのルルお腹を撫でる。
「きゅっ!」
疲れた時にルルのお腹はとてもよく効く……。
「飲み物を持ってきたぞ」
「ありがとう」
ロダンが持ってきたのは、爽やかな冷えた紅茶と小さなチョコレートジェラートだった。
どちらも身体の熱を落ち着かせるのにはうってつけだ。
甘さを含んだ紅茶を飲むと、喉から癒される。
ミントを添えたチョコレートは……うーん、カカオの味は抑えめで、濃いめのミントだ。
まさに全てが終わった後に食べる用のデザートである。
「もう少しダラダラしたら、帰りましょうか」
「うむ、そうだな」
ロダンもチョコレートジェラートを結構なスピードで食べている。
私と同じだ。
音楽は止まず、身体と心の芯から楽しんだ。
遠くの星空で星がまたたいたように見える――今夜のことは、身体の熱と血潮になって、ずっと忘れないだろう。
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!







