270.夜会の終わり
もちもち、たぷたぷ。
ルルを抱きかかえながら、テーブルに戻る。
その頃にはぼちぼち散会の雰囲気が出始めていた。
激しいダンスの曲は終わり、もっとお淑やかな曲へと変じている。
当然、ダンスもゆったりしたものになっていた。
テーブルに近付くと、ロダンのそばにひとりの男性がいた。
何やらエミリアたちがいない間に話を始めていたようだった。
男性の服装は整ってはいるが、華やかではない。招待客ではなさそうな印象だった。
(ウェイターとも違う……別のスタッフかしら?)
エミリアたちが寄った頃に、男性の話はちょうど終わったらしい。
頷く男性がテーブルから離れていった。
それからロダンはエミリアたちに改めて目を向けた。
「戻ってきたか」
「ええ――それで今の方は? 招待客ではなさそうだったけれど」
「その通りだ。シャレス殿の使いだ」
「――!!」
思わぬ名前が出てきて、エミリアは少し目を見開いた。
確かに以前、この会にも姿を見せるかもとは言われていたが。
会の終わりまで何もなかったので、気にしていなかったのだ。
「閉会式の挨拶にシャレス殿が来られるらしい。その後、少し話がしたいのだと」
「……わかったわ」
フォードは抱えるルルをもふもふしている。
「お母さん、お仕事ー?」
「ええ、でもそんなに長い話ではないわ。フォードも同席していいでしょう?」
「その点は今、確認して問題ない」
「きゅぅー……」
ルルのまぶたが閉じそうになっては、ふっと開く。
フォードに抱かれ、眠気が強まっているようだ。
「ねむねむ、ルル?」
「きゅ、きゅるー……」
そんなこと、あるかも。
と言った気がした。
まぁ、ルルはたくさん働いて、たくさん食べたのでねむねむなのも仕方ない。
話し合いの時に、そっと寝かしてあげればいい。
そしてロダンと残ったお酒、料理を食べる。
デザートも食べようかと思ったが、今はあまり腹に入らない。
アルコールありのビュッフェではよくある。お腹の余力がなくなってしまうのだ。
会の終わりにはブルースを始め、イセルナーレの名士中の名士が挨拶を行った。
その中にシャレスもひょっこりといる。夜会の交流自体には姿を見せなかったので、本当に挨拶だけだ。
(外務大臣だから、仕方ないだろうけれど……)
シャレスは門閥貴族でありながら極めて有能、王族や国民からも支持されている。
軍務に携わっていたことから、ある種アンタッチャブルな魔術関係者にも顔が利いた。
そんな人材はイセルナーレでも彼だけなので、多忙極まるのはやむを得ない。
こうして夜会が終わり――エミリアの座るテーブルにキャレシーがやってきた。
酒は飲まないと言っていたが……かなり顔が赤くなっている。
ダンスだとしたら、相当に踊ったのだろうか。
「先生、今日は本当にありがとう」
「どういたしまして。満足できたかしら?」
「うん――まぁ、少し気持ちは整理できたかも」
キャレシーの顔から、完全に迷いが消えたわけではなさそうだ。
結婚なんてすぐ決められる問題でもないから、当然だけれど。
でも、多分キャレシーはガネットをそういう相手として考えようという気にはなったようだ。
どのみち婚約しても結婚は大学卒業後。それを考えれば、焦り過ぎるのも良くはない。
「きゅ……」
ルルはフォードの胸の中で完全に目を閉じていた。
半分以上寝ている。
「精霊ペンギンは問題なかったんだ?」
「ええ、まぁ……ダンスしながら料理したり、色々とあったけれど……」
「……精霊ってそういうものなの?」
「ルルはちょっと特別かもね」
キャレシーはちょっと、の部分で小首を傾げた。気持ちはわからなくもない。
姉が呼びに来てキャレシーは会場から去っていった。
「満足していたようだな」
「そうね。何よりだわ」
「学院時代の君もよく人の世話を焼いていた。その頃を見るようだ」
「そうね……」
あの頃もエミリアはよく指導係に任じられていた。
精神も肉体も頑健で、よく規律を守り、魔術の才もあるということで、そのような立場になることが多かった。
そのおかけで留学生のロダンの世話を焼くようになり――このような人生を送ることになるとは、人生とは奇異なものだ。
会場から多くの人が去り、出入り口が混雑している。
二十分ほどすると会場の人数は開会の頃の1、2割程度になっただろうか。
その時、シャレスがゆっくりと近付いてきた。
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