269.宴の終わりが近付いて
フォードと手を繋いで、踊って。
また席に戻って飲み物や料理(ルルが焼いた串)を食べて。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「今日はいつもよりたくさん運動して、食べた気がする。あと音楽もたくさん聞いたぁー……」
フォードは椅子に体重を預けて休んでいた。
というより、ねむねむモードに入ろうとしている。
確かに会が始まって一時間半ほど。
これだけの人と音に囲まれれば疲れもする。
「……イセルナーレの夜会は延長したりするの?」
ウォリスでは夜会が長引くことは珍しくなかった。
ここではどうなのだろうか。
「基本的に時間通り終わる。イセルナーレは遅刻も延長も好まれない」
「ああ、そうなのね」
「残る人間はいるだろうが、構わず帰って問題はあるまい。殿下はそのようなことは気にされん」
ロダンとブルースの付き合いはそれなりに長いと聞いたことがある。
まぁ、世の中には会が長引いてそこに残るかで評価する人もいるが……ブルースが違うというなら、遠慮なく時間通り帰らせてもらおう。
そして各料理のテーブルもそろそろ店仕舞いが近付いてきた。
ブースは開いているが新規の料理は作らず、すでにできた完成品を食べてもらう感じだ。
アンドリア料理のテーブルでも同様で、すでに火を落としているようだった。
なので網の置かれたテーブルには、ぽにっと座ってステーキをはぐはぐ食べているルルが……。
「そろそろ迎えに行こうかしら」
「はっ……! 僕も行く!」
ぱちりと元気よく答えたフォードととともに、エミリアはアンドリア料理のテーブルに向かった。
さすがに夜会の終盤になると並ぶ客もほとんどいない。
まぁ、皆もう十分飲んで食べているはずだ。
エミリアたちが近付くと、白髪のおじさまがぴしっと礼をした。
「おかげさまで、会を無事に終えることができそうです。誠に御礼の申し上げようもございません」
「いえ、ルルが御力になったのならなによりです」
ルルのお腹がたぷたぷしているのは……つまみ食いのせいだろう。
「つきましては、また後日正式に御礼を申し上げる機会を頂ければと思うのですが――」
「どうかお気になさらず。ルルも良い経験ができましたし」
「……お心遣い、痛み入ります」
ステーキを食べ終えたルルが立ち上がる。
ふにふにふに。
「きゅっ!」
「料理の道は永遠の道。まさしく。ピットマスター様の業に少しでも近付けるよう、今日のことを胸に刻む所存です」
ルルがおじさまによって、両手で抱えられる。
そのまますすーっとルルがエミリアのほうに向けられ、返還された。
「きゅー!」
ルルを同じく両手で受け取ったエミリアは、ルルを胸元に迎える。
「おかえり、ルル」
「きゅっ!」
ふにふにとルルの感触を堪能する。
やはりというべきか、夜会の前より重くなった気がする……。
「頑張ったねー、ルル!」
「きゅーい!」
フォードはルルへ手を伸ばす。
離れていたのはほんの少しの時間だったけれど、今回は特別な会だった。
その間の別れはいつもより寂しかったのかもしれない。
エミリアはフォードの前に屈み、ルルを手渡す。
「んふっ、ありがとう……っ!」
フォードは微笑みながらルルを抱きかかえる。
「お羨ましい絆でございますね」
「ええ、本当に」
こうしてアンドリア料理のスペースをエミリアたちは後にした。
「あそこでお仕事して、熱くなかったー?」
「きゅー、きゅっ」
ふたりはずっと話をしている。
もっふもふでちょっとたぷたぷ。
やはりフォードはルルが大好きなようだった。
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