267.ルルクッキング
焼き物を皿に乗せて席に戻ると、フォードとロダンが何やら話し込んでいた。
新しい背表紙がどうのこうの……本のことだろうか。
テーブルのすぐ近くまで来ると、フォードがエミリアに気が付いて、ぱっと顔を上げる。
「おかえりなさい〜」
「ただいま」
「……あれ? ルルは?」
「それが――」
エミリアは皿をテーブルに乗せながら、事の経緯を説明した。
フォードのみならず、さすがにロダンも驚いたようだ。
「じゃ、じゃあルルはえーと、あっちのテーブルでお肉を焼いてるの!?」
「そういうことになるわね……」
持ってきたアンドリアのサイコロステーキにフォークを伸ばし、もぐもぐと食べるエミリア。
ぎゅっと詰まった旨味、赤身の鮮烈さ……味は申し分ないのだが、ひと切れが小さいのがもったいない。
もっとがーっと大口で食べたいのだが、夜会ではこちらのほうがいいのだろう。
ロダンが腕を組んでふむと頷く。
「精霊だから心配はないが……」
「でも……! そ、そばに行かなくていいの?」
「フォード、お肉が冷めちゃうわよ」
行って、フォードのすぐそばへ皿を寄せる。
フォードは少し迷い、フォークでサイコロステーキをすくって口に運んだ。
瞬間、フォードがぱぁっと顔を輝かせる。
「美味しいよ。でも……」
「私も心配よ。だけどルルはやる気なの。アンドリアの方々もルルを頼りにしているみたいだし……」
大きかったのはやはり、あのおじさまを始めとしたアンドリアのホテルの人たちだった。
歴戦のウェイターもシェフもきらきらした期待の目でルルを見つめていたのだ。
この夜会で美味しい料理を食べてもらいたい、成功に導きたいという気持ちはよくわかる。
「うーん……」
もぐもぐ、ごくごく。
フォードは難しい顔をしながらサイコロステーキを食べ、ジュースを飲む。
不服そうなフォードにロダンが優しく声をかける。
「テーブルを移して、近くで見守ればいい。肉もおかわりできる」
「うん、そうだね……」
ということで、テーブルを移動する旨をメイドに伝えて席を立つ。
会が始まってそこそこの時間が経過した。
壇上ではブルースが様々な来客と談笑、握手を交わしている。
アルコールもほどよく回ってきた頃だ。ダンスにも熱が入り、盛り上がっている。
「えーと、ルルは……」
「あそこね」
エミリアが顔を向けると、アンドリア料理のテーブルはすっかり人がいなくなっていた。
否、それは不評だからではない。
「きゅるるるーん♪」
ルルがすっ、すすっー、すーっ……と流麗な踊りめいた動きで並ぶ客をさばいているのだ。
網の上に乗った串を完璧に把握し、炭も見逃さない。
ルルのエリアはいくつもの網が組み合わさっている調理場所なのだが……。
ルルが隅にある網をびしっと羽で指し示した。
「……きゅっ!」
「こちらの網を交換ですね! ただいま!」
すっかりツーカーの仲になったアンドリアのシェフがルルの示した網を大急ぎで交換する。
アンドリア料理にいるシェフやウェイターは、全員必死になって働いていた。
無理もない。王族のブルース殿下に呼ばれ、メインとも言える肉料理を任されたのだ。
さらに網焼き、鉄板焼きのそばは……熱い。客は良かろうともずっと働いている中の人にとっては、とてつもない負荷である。
しかしルルは精霊なので人の感じる熱さを無視できる。
なので網のすぐそばで焼き物にずーっと専念できるのだ。
怒涛の勢いでルルは網焼きを支配し、串を焼き上げていく。
「きゅー!」
「炭をこちらに! はい、ただいま!」
シェフたちが右往左往しながらルルの仕事についていっている。
そこでルルがいくつものサイコロステーキ串をシェフへと渡した。
「きゅっ!」
「サイコロ串、9本出来上がり……あれ、10本渡したはずですが……」
すすっとルルが肉のなくなった串をシェフに差し出す。
「きゅっー……!」
「味見で1本! はい、わかりましたーっ!」
……。
ま、まぁ……客の列はさっきまでに比べると絶無に等しい。
客を待たせないで料理を提供できているのだから、多分良いのだ……。
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