266.焼いて焼いて
「ええ、家族が料理に参加したいとかで……」
「招待客が料理に参加するのは、通常はあり得ないことですが……ですが、古くは宮廷料理人が割り込んだ先例も……」
「そんな例が?」
イヴァンが小首を傾げる。
「それは確か、船上のパーティーでしたが。裁定では……そう、料理とは神に捧げる業のひとつであり、腕に覚えのある者はその業を披露するのが許されるとか……」
ウォリスにはそのような先例も裁定も無かった気がする。
イセルナーレには変な……というか、そんな先例まであるのか。
「ちなみに料理をしたいのは、この子なのですが大丈夫でしょうか」
エミリアは腕の中のルルを軽く持ち上げた。
「きゅっ……っい!」
普段よりも気合の入った挨拶だ。
イヴァンが目をしばたたかせて、ルルを見つめる。
「ええと、その精霊ペンギンが……」
「ルルです」
「きゅーい!」
どうやら話の対象がルルだとは思っていなかったらしい。
エミリアもそうだと感じたので、今補足したわけだけれど。
「……精霊ペンギンが料理をしてはいけないというルールはそもそもありませんからね」
「精霊ペンギンが料理をしてはいけないというルールがないのでセーフですか」
「禁じられていなければ、イセルナーレではおおむねセーフです」
イヴァンが肩をすくめる。
「法がしっかりしているということは、法で定められていないことはあえて自由。そうでなければ創造性もなくなりますからね」
「きゅい!」
ルルがぐっと羽を掲げる。
どうやらイヴァンの意見に厚く賛成らしい。
いや、料理をしたいだけとも……。
しかしこれもマナー的にはオッケーらしく。
であるならば……。
エミリアはルルを両腕で、アンドリアのおじさまの前に差し出した。
「どうか、ルルを宜しくお願いいたします」
おじさまは背をまっすぐ伸ばし、両腕でルルを受け取った。
ぬいぐるみの受け渡しみたいな。
「こちらこそ、ピットマスター様と働けますことを光栄に思います」
「きゅっ!」
ということで、ルルはアンドリア焼き物コーナーで働くことになった。
もちろんタダ働きではないとエミリアは知っている。
前回のバーベキューでもルルは自分で焼いた一番良いところは自分で食べるのだ。
網の近くに恭しく置かれたルルは早速、トングと刺し箸を構える。
「きゅー……きゅっ!」
しゅしゅしゅ……。
ルルが目をきらーんと光らせ、肉を引き上げる。
そして代わりに別の肉をセット。
「きゅっ!」
さらに別の串をひっくり返し……スライド移動しながら焼き物のお世話を始める。
もちろん並んでいる人は全員、びっくりしていた。
「ペ、ペンギンがどうしてここに?」
「微弱だが魔力がある……精霊ペンギンだろう」
「いや、精霊ペンギンがどうして焼いてるんだ?」
それはそう。
でもルルは賢くて食べるのが大好きなだけなので……。
ついでに列に並んで焼き物をゲットする。
エミリアの後ろにいるイヴァンもたまに首を傾げていた。
ドキドキしながらエミリアが問う。
「問題がありましたか?」
「まぁ……」
振り返るとルルはすすーっと優雅なリズムで焼き物を支配していた。
どことなくそのリズムは楽団の奏でる曲に似ているような。
(そ、その方面でも役に立つの……かしら?)
ちょっと離れたところから眺めてみても、ルルはノリノリで働いていた。
時折、串の焼き物をひょいぱくしながら。
「きゅ〜♪」
ルルはとりあえず満足しているらしい。列の解消も早くなってきている。
ルルの焼き物スピードはやはり速かった。
「ちゃんと効果は出ているようなので、問題はないかと……」
「ふぅ、それなら良かったわ」
「では私はそろそろこれで。またの機会がございましたら」
「ええ、どうも色々とありがとうございます」
イヴァンが去り、エミリアはルルと自分の手にある焼き物の皿を交互に眺める。
(……これも良い経験になるということなのかしら)
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』やポイントの☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!







