265.アンドリアの料理人再び
よく見ると、この料理テーブルの方々は誰もが数か月前にアンドリアのホテルで見かけた人ばかりだ。
(殿下に招集されたのね……!)
アンドリアのステーキはイセルナーレのみならず近隣諸国でも名高い。
しかも王都からさほどの距離でもなく……殿下が来客に振る舞う肉料理として、十分である。
「きゅっ」
「ええ、そうね」
振り返るルルを抱えて、エミリアはテーブルに近付く。
白髪のダンディーなおじさまがルルへ華麗に一礼する。
「麗しきご令嬢と素晴らしきピットマスター様にこのような場で再びお会いできましたこと、感激の至りにございます」
「私こそ、またお会いできまして嬉しく思います」
(あ、ルルのことは『素晴らしきピットマスター様』なのね……)
夜会用の精神でいなかったら、そこにツッコんでいたかもしれない。
だけど、ここは世界に冠たるイセルナーレの殿下が主催する晴れの場。
ノリで言葉を発しない程度の理性はあった。
「きゅう……きゅっ」
ルルは羽を掲げながら、料理のテーブルを見渡す。
それはいくつもの長机が組み合わさった巨大な調理エリアであった。
壁を背にして肉、焼き物を提供しているのだ。
鉄板と網が並べられ、料理人が額に汗を流しながら作り続けている。
それを招待客は列を作りながら選び、受け取る……というスタイルだ。
出来立ての肉と焼き物。
やはり目玉はアンドリア牛の網焼きサイコロステーキのようだ。
その他にはアンドリア産の野菜の焼いたもの。キャベツ、パプリカ、オニオン……。
海産物はないので、ホテルで食べた時よりも縮小されているのは間違いない。
受け取り口には小皿のソース。
様々なソースも取り揃えているようであった。
目をこらすとこのエリアの力の入れようが感じられる。
(このエリア、稼働しているルーンが多いわね)
排煙、消臭のルーンが他よりも高度なものが置かれているように思う。
まぁ、肉料理は常に人気かつ混雑が予想されるので当然だろうか。
そこでルルの瞳が鋭くなった。
ピットマスターの血(もしくは羽)
がうずいている。
「……きゅー」
「誠にお恥ずかしい限りでございます。合格点のものは提供できれど、満点のものは……」
「きゅう」
当たり前にルルと会話してるので、エミリアはびっくりした。
「ルルの言葉がわかるのですか?」
「お言葉はわかりませんが、身体の動きと顔つき、声の調子でニュアンスは十二分に伝わって参ります。諸外国のお客様と接するのと同じように」
はぁー、とエミリアは感嘆した。
ルルの言葉が判別できるのは、エミリア自身を除くとセリス、フォードくらいだ。
ロダンはまだ少し怪しい。
接している時間的にやむを得ないが。
しかし、まさか会うのが2回目のこのおじさまがルルの言葉を理解できるとは……!
一流ホテルのフロア支配人、恐るべし。
「きゅ、きゅー」
ルルはエミリアを見上げる。
きらきらとした瞳で。
「助けてあげたい、という気持ちはわかるけれど……」
「きゅうー」
「うぅ……」
ルルの寂しそうな声にエミリアは弱かった。
動機が悪いわけではない。
ルルは100%善意だ。
ふぅ、とエミリアは心の中を落ち着かせる。
義を見てせざるは勇なきなり、か。
「……ルルがお助けしたいとのことなのですが」
「それは――もしそうであれば、なんと心強いか。しかし……」
「きゅっ!」
ルルが羽をふにっと掲げる。
『お客さんに美味しいものを提供するのがピットマスターの仕事でしょう!?』
その鳴き声には力があり、威厳があった。
まぁ……わかるのは多分、この場だとエミリアとこのおじさまだけだろうが。
そこにイヴァンが追い付き、エミリアに助け舟を出す。
「何かお困りで?」
おおっ、なんという助け舟。
イセルナーレの生粋の貴族である彼ならば、いい知恵を出してくれるかもしれない……!
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