264.旧知
キャレシーの差し出した手を、ガネットは目を細めながら取った。
「いいだろう。お前も変わるもんだな」
「……はぁ?」
「ちょっと前なら想像できたか?」
少し苦笑いするガネットにキャレシーは唇を尖らせる。
確かに、そうだ。
大学に入った時は……こんなことになるとは夢にも思わなかった。
ガネットがテレストにそっと声を掛ける。
「ということだ。適当に休んでいろ」
「はい、そうさせて頂きます」
テレストはガネットだけでなく、キャレシーにも丁寧に一礼して去っていった。
「失礼しますね、キャレシーさん」
「え、ええ……」
ほんの一瞬、テレストがキャレシーに向けてウィンクをした。
悪感情などはまるでなく、むしろ背を押してくれているような。
ううんとキャレシーは心の中で唸る。
(私、何か勘違いしてた……?)
ガネットと先に踊られ、対抗心のようなものを抱いていたのだが……どこかボタンを掛け違えているのではないか。
(だとすると、私は――)
「おい、手を止めるな」
「はっ……!」
頭の中の思考に囚われ、キャレシーの動きが止まっていた。
そこを指摘されて、キャレシーは意識をガネットに戻す。
触れている。
確かに、ガネットの手がキャレシーの手に。
キャレシーはガネットの手の感触を強く感じ取った。
燃えるほどに熱く……いや、これは魔力の錯覚だろうか。
神経が昂り、ガネットの魂そのものを感知できるようだ。
「大丈夫か?」
「……うん」
曲が移り変わり、ダンスが始まる。
息を整えてキャレシーはステップを踏み始めた。
曲は『冬の王の背中』だ。
ゆったりと静寂から進み、激しくなる。
ガネットの目がキャレシーを映す――のをキャレシーは見た。
「きゅっ、きゅっ」
ぽよぽよ。
少しダンスをしたルルは、次なる料理に向かう。
目指すはちょっと遠めのテーブル。
エミリアとしてはキャレシーとガネットのなりゆきを見ていたかった気もするが、ここらが潮時だろう。
(あれ以上、私がいたらマイナスになりそうだし)
それにルルのネクストもぐもぐミッションのほうが大事なので。
「きゅー」
「……肉料理の雰囲気がする? 確かに、私たちの入ってきた近くには肉料理のテーブルはなかったわね」
サラダ、魚と食べたルルは肉を食べたい所存であった。
ぽよぽよぽよ。
もう少しで料理のテーブルに辿り着く。
しかし人が多く、テーブルは囲まれていた。
と、そこでエミリアは懐かしの顔を目にした。
オールバックの金髪、すっと引かれた眉毛……整った容貌の男爵。
かつて船の解体でのクライアントだった、イヴァンだ。
王都にいる貴族の大部分が呼ばれているということなので、彼も招待されたのだろう。
「お久し振りです、エミリアさん」
「イヴァンさん、お久し振りです」
ちらと見ると、イヴァンは杖をついていた。
「あはは……まだ完治しておりませんでね」
「お痛ましい……」
「春頃には杖は不要になる、という医者の言葉を信じるしかありません。エミリアさんは今日はどなたと一緒で?」
「ええ、この子と息子と……私はカーリック伯爵の付き添いで」
イヴァンは人好きのする笑みを崩さない。
誰か男性と来ていたのを半ば予期していたようだ。
「なるほど、彼ならば退屈しないでしょうね。今は私も踊れる状態ではありませんが……また機会があれば、一曲踊って頂ければ」
「ぜひとも」
「……ところでペンギンさんがひとりで歩いているのですが」
「えっ、ええっ!?」
指摘されてエミリアが見渡すとルルはひとりでテーブルに向かっていってしまっていた。
「ちょっ、ルル――!」
「きゅっー!」
そこでルルが羽を掲げて、ジャンプする。
「……ん?」
エミリアがテーブルを見ると、そこには見覚えのある方々が。
向こうの人たちもルルを見て驚いている。
「まさか……?! あなた様は……!」
テーブルの向こうで声を上げたのは白髪のダンディーなおじさま。
アンドリアでフロア支配人をやっていたあの人が、この一角のテーブルを差配していたのであった。
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