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【コミカライズ】夫に愛されなかった公爵夫人の離婚調停  作者: りょうと かえ
4-1 宵闇に踊る

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264.旧知

 キャレシーの差し出した手を、ガネットは目を細めながら取った。


「いいだろう。お前も変わるもんだな」

「……はぁ?」

「ちょっと前なら想像できたか?」


 少し苦笑いするガネットにキャレシーは唇を尖らせる。


 確かに、そうだ。


 大学に入った時は……こんなことになるとは夢にも思わなかった。


 ガネットがテレストにそっと声を掛ける。


「ということだ。適当に休んでいろ」

「はい、そうさせて頂きます」


 テレストはガネットだけでなく、キャレシーにも丁寧に一礼して去っていった。


「失礼しますね、キャレシーさん」

「え、ええ……」


 ほんの一瞬、テレストがキャレシーに向けてウィンクをした。


 悪感情などはまるでなく、むしろ背を押してくれているような。


 ううんとキャレシーは心の中で唸る。


(私、何か勘違いしてた……?)


 ガネットと先に踊られ、対抗心のようなものを抱いていたのだが……どこかボタンを掛け違えているのではないか。


(だとすると、私は――)


「おい、手を止めるな」

「はっ……!」


 頭の中の思考に囚われ、キャレシーの動きが止まっていた。


 そこを指摘されて、キャレシーは意識をガネットに戻す。


 触れている。

 確かに、ガネットの手がキャレシーの手に。

 

 キャレシーはガネットの手の感触を強く感じ取った。

 燃えるほどに熱く……いや、これは魔力の錯覚だろうか。


 神経が昂り、ガネットの魂そのものを感知できるようだ。


「大丈夫か?」

「……うん」


 曲が移り変わり、ダンスが始まる。


 息を整えてキャレシーはステップを踏み始めた。


 曲は『冬の王の背中』だ。


 ゆったりと静寂から進み、激しくなる。


 ガネットの目がキャレシーを映す――のをキャレシーは見た。





「きゅっ、きゅっ」


 ぽよぽよ。

 少しダンスをしたルルは、次なる料理に向かう。


 目指すはちょっと遠めのテーブル。


 エミリアとしてはキャレシーとガネットのなりゆきを見ていたかった気もするが、ここらが潮時だろう。


(あれ以上、私がいたらマイナスになりそうだし)


 それにルルのネクストもぐもぐミッションのほうが大事なので。


「きゅー」

「……肉料理の雰囲気がする? 確かに、私たちの入ってきた近くには肉料理のテーブルはなかったわね」


 サラダ、魚と食べたルルは肉を食べたい所存であった。


 ぽよぽよぽよ。

 もう少しで料理のテーブルに辿り着く。

 しかし人が多く、テーブルは囲まれていた。


 と、そこでエミリアは懐かしの顔を目にした。


 オールバックの金髪、すっと引かれた眉毛……整った容貌の男爵。

 かつて船の解体でのクライアントだった、イヴァンだ。


 王都にいる貴族の大部分が呼ばれているということなので、彼も招待されたのだろう。


「お久し振りです、エミリアさん」

「イヴァンさん、お久し振りです」


 ちらと見ると、イヴァンは杖をついていた。


「あはは……まだ完治しておりませんでね」

「お痛ましい……」

「春頃には杖は不要になる、という医者の言葉を信じるしかありません。エミリアさんは今日はどなたと一緒で?」

「ええ、この子と息子と……私はカーリック伯爵の付き添いで」


 イヴァンは人好きのする笑みを崩さない。

 誰か男性と来ていたのを半ば予期していたようだ。


「なるほど、彼ならば退屈しないでしょうね。今は私も踊れる状態ではありませんが……また機会があれば、一曲踊って頂ければ」

「ぜひとも」

「……ところでペンギンさんがひとりで歩いているのですが」

「えっ、ええっ!?」


 指摘されてエミリアが見渡すとルルはひとりでテーブルに向かっていってしまっていた。


「ちょっ、ルル――!」

「きゅっー!」


 そこでルルが羽を掲げて、ジャンプする。


「……ん?」


 エミリアがテーブルを見ると、そこには見覚えのある方々が。


 向こうの人たちもルルを見て驚いている。


「まさか……?! あなた様は……!」


 テーブルの向こうで声を上げたのは白髪のダンディーなおじさま。


 アンドリアでフロア支配人をやっていたあの人が、この一角のテーブルを差配していたのであった。

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― 新着の感想 ―
お、これは好バトルきますか!
弟子の晴れ舞台だったとは…!?www
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