263.テレスト・クアレーン
「で、でも……」
「ダンスも踊れないなら、諦めるしかないわね」
エミリアの言葉にキャレシーがはっと顔を上げる。
「きゅっ、きゅっ」
満足したルルがぽにぽにとエミリアのほうへ歩いてくる。
「相談にはいつでも乗るけれど……別にダンスくらい、なんでもないわ。この子だってきちんと踊れるもの」
「……きゅ?」
話題を振られたルルがふにっと頭を傾げる。
ふふりと微笑んだエミリアがルルを連れてその場を離れる。
「ルル、少し休憩しましょう。何か食べたいものはあるかしら」
「きゅっ……きゅ!」
ルルが入ってきたところから離れた料理用テーブルを羽で示す。
どうやら他の料理テーブルも含めて考えたいらしい。
エミリアとルルが離れると、キャレシーは唇を引き結んで……ガネットを見た。
ダンスは一段落したようで、少女が隣から離れる。
ガネットはひとりだ。
グラスをウェイターに戻したキャレシーは意を決して、前に進む。
「そう、なんてことはない。センセーの言う通り。ガネットとは何回も踊ったし……」
呟きながら考えると意識がまとまる。
結婚だとかどうだとか。
そんなこと、今は関係ない。
休憩時間でダンスエリアには人がごった返す。
その中をキャレシーは可能な限り急ぎながら、優雅さは保ちつつ進む。
「ごきげんよう」
「……ごきげんよう」
ガネットのそばに来て挨拶をすると、彼も挨拶を返した。
この場で会うとは思ってなかった反応だ。
ガネットがキャレシーを見つめて、一言。
「まぁまぁ、良いセンスだな」
「ありがと。ほぼ全部、センセーのチョイスだけど」
「あぁ、なるほどな……」
やや渋い顔をしながら納得したのは、やはりエミリアには複雑な対抗心があるからだろう。
栗毛色の美少女がちょんとガネットの後ろから顔を出す。
可愛い。本当に可愛らしい小動物的な仕草だ。
やや吊り上がった瞳、きめ細かな肌。背は低いが手足はすらりと長い。
「あら、こちらの方は……」
「前に話したキャレシーだ」
「初めまして」
挨拶をするキャレシーに少女が微笑む。自然な、洗練された動き。
そして今のやり取りだけでガネットと少女が旧知の仲だとわかる。
「初めまして。私、テレスト・クアレーンと申します」
「……!」
クアレーン。
ということは、ガネットの親族か。
言われてみると髪の色も顔のパーツも……似ているかも。
ただ、性別と背丈がかなり違う。
並ばないとふたりを結びつけるのは困難だった。
「あなたのことはガネットから聞いておりますわ。魔術でとても優れた才をお持ちなのだとか」
「あっ、いえ……そんな」
こちらは相手のことを知らないのに、テレストはキャレシーのことを知っているらしい。
うーん、にしても可憐。
自分とは本当に真逆の、女の子らしい女の子だ。
「余計なことは言うな、テレスト」
「あら? ふふっ、ガネットと互角なんて本当に凄いじゃないですか」
「まったく……」
はぁ……と息を吐いたガネットがキャレシーに向き直る。
「で、挨拶に来たのか」
「ううん。それだけじゃなくて――」
なんてことはない。
例え頬が少し引きつっていても。
胸の高鳴りが怖いくらいでも。
踏み出さないと何もわからない。
何も変わっていかない。
キャレシーはすっと腕をガネットの前に出した。誘うように。
テレストがまぁ、と口元を両手で押さえる。
対するキャレシーは目の前の金髪の青年を直視できないくらいだけれど……なんとか震えずに言葉を言えた。
「私と踊ってよ。暇ならさ」
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