262.迷いと
「セ、センセー!?」
「大丈夫……げほっ、ちょっとむせただけだから」
エミリアの思ってもいないところから、キャレシーのとんでもない情報が流れてきた。
(というか、動きが早い……。いえ、貴族ならそろそろなのかしら)
自分に置き換えると遅いというわけではない。
エミリアもセリスもそうであった。
「それで……あなたはどう考えているの?」
「……わからない。突然言われて。返事も保留にしてるし」
「あぁー……」
ほむほむ。
なんとなく掴めた。
ガネットの母は息子が心配なのだろう。わからなくもない。
ガネットは魔術の才能があって、それでいて調子に乗っているところがある。
それだけの才覚を持った若者なので仕方ないわけだが……。
(その点、キャレシーならガネットと同じ目線で話ができるし……)
ガネットもキャレシーには一目置いている。間違いない。
キャレシーもガネットに対しては同じアンドリア生まれということもあり、トゲは柔らかい。
(……ふむ、意外とイイ気はするけどね)
ただ、それはエミリアから見える面だけだ。
講師と学生という立場を超えたところにも当然、判断の基準はある。
金髪が趣味じゃないとか。
そうなったらお手上げではあるのだけれど。
「ガネットのことは嫌い?」
「ううん。馬鹿だとは思うけど……男として考えたことなんてない」
これまでのやり取りで、エミリアはキャレシーを少しは理解しているつもりだった。
なので、確信を込めて指摘する。
「キャレシーって男の人に惚れたこと、ないでしょう?」
「……!」
やっぱりと思った。
大学に来るにも化粧をほとんどしないし、たまーに寝癖も残してくる。
ダンスやマナーの講習でも年頃の男性との触れ合いが極端に少ないのは感じ取っていた。
「まぁ、私も恋愛経験が豊富なわけじゃないけど……」
「……けど?」
「心の声に従ったほうがいいわ」
それはエミリアから送れる精一杯のエールだった。
「才能も財産も……周りの声も結局は人生の決め手にはならないの」
「そう、なの?」
「私の経験上ね。それよりも――長く一緒にいられそうなことのほうが、ずっといいわ」
エミリアがロダンを選んだのも、そうだった。
彼だけが多分、エミリアと本当の意味で色々なものを共有できるのだ。
「わかった。あまりよくわからないけど」
あまりに正直な感想でエミリアはふふっと笑ってしまう。
「そういうものよ」
「でも、あれはどうなの?」
キャレシーが唇を少し尖らせてガネットと横の美少女を見やる。
「ガネットは知らないんでしょう。それに客観的に見て、ガネットだって器量は良いし」
こくこく。
白ワインが美味しい。
「……あの隣の子がガネットを……その気に入っているとか?」
「ゼロじゃあないでしょ?」
こくこくこく。
うーん、アルコールが染み渡る。
グラスを空にしようとするエミリアの様子にキャレシーが目を細める。
「センセー、飲みすぎじゃない?」
「私、この程度で酔わないわよ。お酒には強いんだから」
「そうなんだ……意外」
「ウォリスでは飲むのが当たり前だし」
と、そこでグラスの白ワインがほとんどなくなった。
「きゅっ!」
ちょうど曲の切れ目で、ルルが満足気な顔をしている。
周りの人たちがルルに注目し、拍手する。
「おー……素晴らしい。ペンギンのダンスが見られるとは」
「殿下の用意した出し物ですかな、これは」
「多分、そうでしょう。まさか精霊でもペンギンが曲に合わせて踊るなど……」
いや、ルル自身のダンス欲だけなのだが。
まぁ、エミリアもルルのことを知らなければ、目を点にしたのは間違いないのでツッコまないけれど。
「さて、私はルルを一旦回収してくるわ。ワインも新しいのをもらわないとだし」
キャレシーがノンアルコール飲料のグラスを両手で心細そうに握っていた。
「あなたも迷うなら、とりあえずダンスに誘ってみれば?」
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