260.踊り始めよう、羽ばたきながら
エミリアはにこやかにブルースの挨拶を聞いていた。
いわく、今回は国家に功労のある人を招待したとかうんぬん。
その間にもルルは羽を動かして、くちばしをもにゅもにゅさせていた。
やがてブルースの挨拶が終わり、グラスを掲げる。
「では、乾杯!」
その時には、ルルもグラスを持っていた。いや、頬はパンパンであったが。
「きゅー!」
ノリ良くルルも乾杯して、エミリアもグラスを鳴らす。
こうして本格的に夜会が始まった。
曲も華やかなものになり、ダンスも始まる。
「ルル、まだ食べる?」
「きゅー、きゅい」
ルルは首を横に振り、ケープをはためかせた。
踊る。
まずは踊りたい。
そんな強い意志を感じる。
対するフォードはまだ、サラダをつっついていた。
「僕はまだ食べてたいかなぁ」
「じゃあ……ルルは私が連れて行くから、ロダンはフォードのそばにいてくれる?」
「ああ、わかった」
席を立ち、ルルを抱きかかえたエミリア。
広間の中央はダンスの場となって、すでにやる気のある数人が踊り始めていた。
「きゅっ……!」
「ルル、やる気ね」
ブルースの挨拶中、ずっと食べていたルルのお腹は……少しぽよっていた。
体重管理のためにもダンスは悪くない。
「じゃあ、私はここにいるからね」
「きゅう!」
ダンスの輪の外に立ったエミリアが屈んで、ルルを床へ降ろす。
ふにっと着地したルルが、ぺちぺちぺちとダンスする人々に向かっていく……。
「うん?」
そこでエミリアは一瞬、かすかに青い海の潮騒を感じた気がした。
もちろん王都が海の近くにあるとはいえ――これは魔力だ。
「……ああ、なるほど」
エミリアは鮮やかな青髪、お淑やかなドレスをまとったキャレシーが輪の反対側にいるのに気が付いた。
彼女が魔力の波動をエミリアに送ってきたのだ。
キャレシーの隣にはよく似た雰囲気の青髪の女性がいる。
彼女がキャレシーの姉だろう。
エミリアがグラスを掲げると、キャレシーは隣の姉に何かを言って、離れた。
「……?」
キャレシーは人混みに紛れてしまった。
で、ルルは輪の中に入ると――華麗にダンスを始めた。
「きゅー……きゅっ」
ペンギンらしく、もふっと。
ぺちぺち歩きと羽の動きを組み合わせながら。
(うーん、可愛い……)
人の踊るものとはかなり違う。
でも可愛らしさはとびきりだった。
ルルは器用に人とぶつからないよう、つつーっとダンスする。
ちなみにルルとすれ違った人は、全員ルルに驚いていた。
「まぁ、ペンギン……ペンギン?」
「小さな魔力があるからペンギンよ。ケープもあるし」
ケープがあることで、ルルは野良精霊ではなく、誰かの付き添いであると認識されているようだった。
「きゅっ!」
ときおり、ルルがケープをはためかせる。
ルルを見守っていると、エミリアの隣にキャレシーがやってきた。
「こんにちは、センセー……はぁ」
「あら、ごきげんよう」
にこやかなエミリアに比べて、キャレシーはもう開会時点で疲れていた。
笑顔を作ろうとしているが、ひきつっている。
「疲れた?」
「当たり前。料理とかは美味しいけど」
キャレシーもグラスを持っているが、色合い的に紅茶ではないだろうか。
キャレシーはもうイセルナーレでは飲酒ができる年齢のはずだけれど。
「ワインも結構いけるわよ」
「……やめておく。今、酔ったら危ない」
もったいないなぁ。
エミリアは白ワインをくいっと飲む。
爽やかで、このようなところで飲むワインとしてはかなり上物だ。
良い音楽と良い料理。
さらにルルのキュートなダンスを見守りながら飲むのは乙なものなのに。
キャレシーがエミリアに耳打ちする。
「はぁ……ねぇ、さっきからダンスの申し込みが続いているんだけど」
「いいじゃない。踊らないの? せっかく練習したのに」
「だって、貴族の男からだよ。私なんかと踊って得があるの?」
ふむ……とエミリアは少し顔を引いてキャレシーを見つめた。
表情は硬いが、夜会に慣れていないのが逆に魅力かもしれない。
顔立ちはスラッとして綺麗で、知的さを感じる。
ドレスやアクセサリーは――エミリアチョイスなので、公爵令嬢レベルにまとまっているはずだ。
(まぁ、ちょっと男性受けは狙ったかもだけど)
総評として、男性からはかなり好評のはずだ。
でもキャレシーはそれに戸惑っているようだった。
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